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「まだ(ヒューザーとの)話し合いの途中。今後、どういう形で住むことになるのかも分からない。警察の捜査で何が明らかになるのか、助けになるのかも分からないし…」
東京都荒川区荒川のマンション「グランドステージ町屋」。この日午後、自転車で帰宅した住民の一人はこう語った。
同マンションは、同区の調査で耐震構造計算書の偽造が発覚。建築基準法で求められる耐震強度は72%しかないことが分かった。ただ、耐震強度が50%以上のため、強制的な解体や住民退去もないかわりに、建て替えなどで国や自治体の支援を得ることはできない。
売り主のヒューザーは今月二日、初の住民説明会を開いたが、「うちはもう体力がない。ここまで手が回りません」とのっけからギブアップ宣言。「そんな話はないだろう」と住民側の強い反発を受けたという。
偽装発覚直後、急きょ発足した同区マンション耐震問題対策担当課の菊池秀明課長によると、区はヒューザーに対し「改善する方向で住民救済の枠組みをつくるよう」指示、年内にもう一度、住民説明会を開催させるという。一方、住民でつくるマンション管理組合も対策委員会をつくり、区やヒューザーと交渉しているという。管理組合のアンケートによれば、三十世帯のうち90%以上が耐震補強をした上でこのまま住み続けたいという意向だ。
菊池課長は「区が建築確認しており責任はある。国と区の折半負担で実地の耐震強度検査をすることになるだろう」というが、今後、耐震補強工事を実施した場合、「億単位の費用がかかる。もし行政が負担するとなれば、公平感の問題から異論があることは承知しており、議会などでの議論は覚悟している」と話す。
こうした中ぶらりんの状態が住民の口を重くしているようだ。特に子どもを持つ世帯では、学校で“姉歯物件”が話題になることが児童にとって苦痛となっているという。「現にここに住んでいるわけだから。あんまり騒ぎになってほしくはない」と住民の主婦は声を絞った。
周辺は古い町工場と低層民家が混在する「準工業地域」。マンション住民以外の地元住民の感情は複雑だ。無職男性(77)は「確かに降ってわいた話で、住人には気の毒だが、正直、税金投入には素直に賛成できない。あのマンションは震度6強でも倒れないんでしょ? ウチは震度5でもつぶれると思う」と話す。
一方、同じく建築主がヒューザーで施工は木村建設が下請けに入った、千葉県市川市のグランドステージ下総中山(二十三戸)の耐震強度は73%だ。管理組合の神田真也副理事長(40)は「確かに『すぐ出なくてはいけない』という意味では、緊急度は少ないかもしれない。しかし、偽装物件には変わりがなく、補強工事では転居は必要。願うのは、しかるべきタイミングでいいので、(公的支援の)対象にしていただけないかということです」と話す。
■私たちを忘れないで
町屋の物件同様、ヒューザーを交えた住民説明会は不調に終わっている。神田副理事長はこう訴える。「住民は不安な年越しを迎えるが、今後も、私たちの存在を忘れないでほしい」
国交省によると、姉歯元建築士が構造計算に携わった分譲住宅物件のうち、「町屋」や「下総中山」と同じ耐震強度が50%以上、100%未満の「狭間」物件は十九日現在、「ロセット喜多見」(東京都狛江市)「グランドベイ横浜」(横浜市)「グランドステージ鶴見」(同)「アルカンシェル和田町駅前」(同)「グランドステージ江川」(川崎市)「グランドステージ川口原町」(埼玉県川口市)の計八件が判明している。
このうちロセット喜多見などを除く六物件の建築主はヒューザーで、グランドステージ町屋は同社が加盟する日本住宅建設産業協会の優秀事業表彰も受けた。周辺の十二物件に比べ、専有面積が一・四一倍なのに価格を一・二七倍に抑えたことが評価されたという。
その際、専門紙からインタビューを受けた小嶋進社長は「これまでに例のない物件だけにリスクはあったものの、広い空間をリーズナブルに提供したいという意地がお客さまに通じ、好成績を収めることができました」と語っている。
公的支援の対象が耐震強度50%未満に絞られ、ヒューザーも逃げ腰な中、今後の補強工事などの費用はだれが担うのか。
町屋の物件では、設計の元請けが今回の問題で代表が自殺した森田設計事務所、施工主はJR東日本の関連会社、東鉄工業(新宿区)だ。同社はグランドベイ横浜も施工している。
同社経営統括室の担当者は「まず、行政とヒューザーの対応が決まらないと、話が進まない」と話す。住民側との面談はこれまでなく、予定もないという。
同社が携わった二件とも下請けは木村建設で、「ヒューザーからの指定だった」(東鉄工業)としており、結局、審査を通った設計図に沿って工事をしただけで、施工主としての責任はないという主張だ。
■公的支援基準に合理性なし
欠陥住宅全国ネットの構造計算偽造問題対策本部事務局長、谷合周三弁護士は「耐震強度での線引きが50%である合理的な根拠はない。100%未満なら何らかの対応が必要だ。最終的な責任は自治体や国で、建築主が対応できない以上、自治体や国が改修などの費用を負担すべきだ」と語る。京都府立大学の上野勝代教授(住居学)も業者や行政の責任追及を前提に「消費者に責任があるわけではない。売るにも売れない。50%以上でも公的支援が必要ではないか」と話す。
逆に「運が悪かったのだろうが、自分で責任を取るしかない」と苦渋を込めて語るのは一級建築士の伊藤学氏だ。「50%の線引きの基準は安全性ではなく、それ以上は財政的に担えないという理由からだ。たしかに行政に責任はある。でも、実際担いきれない。耐震診断にしてもやるべき対象は概算で十万件。行政といっても役人には無理で、下請け可能な一級建築士の数はわずか二、三万人だ」
弁護士で、法政大学の五十嵐敬喜教授(都市法)も「50%の値は政治的な線引き」と指摘した上で、「同情の感情で言えば、全面的に公的支援すべきだが、自分は五分五分とみる。というのも業者の責任、自然災害などとの整合性があるからだ。最終的には世論が左右するだろう」とみる。
先の専門紙のインタビューに小嶋社長は「三世代が継承するマンション造りがモットー」と語った。町屋の物件の建築確認は二〇〇一年二月。わずか四年でその「虚言」は覆され、狭間に立たされた住民の明日への不安は募るばかりだ。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20051221/mng_____tokuho__000.shtml