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テレビ局のスタジオを再現したセットで、学生服の中高生らがテレビの仕事について説明を受けていた。国や企業の研究機関が集まった関西文化学術研究都市(京都府精華町、木津町)にある「私のしごと館」内での光景だ。
同館は三階建て、延べ床面積約三万五千平方メートルの巨大な施設で、一昨年三月にオープンした。テレビや消防官、声優など、四十四の職業を体験できる「しごと体験ゾーン」などがある仕事のテーマパークだ。「若年者を中心としたキャリア形成支援を総合的に行う中核的な拠点」と同機構担当者は話す。
問題は採算だ。巨大な「箱もの」の総建設費は五百八十億円に上った。建設資金は、労働者と雇用主が折半で国に納めている雇用保険料だ。だが、昨年度の同館の利用者は一日平均約千二百人だ。一クラス四十人で、一学年五クラスある学校が、修学旅行で六校訪れるだけの計算だ。同館の昨年度の入場料などの収入は一億一千万円なのに対し、運営費は約十五億円もかかった。
■昨年度まで赤字34億円
当然、赤字だ。その赤字は「失業給付の財源となる雇用保険料から穴埋めされている」(厚生労働省)。昨年度までに計三十四億円が、同保険料を管理する国の労働保険特別会計から穴埋めされた。
「今後も赤字が予想され、年々、失業給付の財源が毀損(きそん)されてゆく」と、雇用保険の無駄遣いに詳しい社民党衆院議員の保坂展人氏は批判する。
同館に対する保険料の「無駄遣い」については、さまざまなメディアで批判が繰り返されてきた。NHKも今年五月、同館について、独立行政法人の合理化の進ちょく状況を伝えるニュースの中で、「この施設は昨年度、およそ二十一億円の維持費に対し、入館料などの収入は一億円しかあげていない」などと指摘していた。「無駄」の言葉こそないが批判的だ。
ところが、この赤字施設の一部設計を担当したのは、NHKの関連会社・NHKエンタープライズ(本社・東京、当時NHKエンタープライズ21)と、内装会社の共同企業体だ。
同機構によれば、設計業者の選定は公募で行われた。八社(共同企業体を含む)が参加し、NHK関連会社らの共同企業体が審査に通った。その設計費は、計約九億七千万円で、これがNHKエンタープライズなどの収入となった。
冒頭、紹介した「TVスタジオの仕事」というブースに、指導員四人を派遣しているのも、NHK関連会社・NHKきんきメディアプラン(大阪市)で、委託料は昨年度、約千四百七十万円だ。
同館とNHK関連会社の関係はこれだけではない。
同館には、職業データベース「ジョブジョブワールド」というコーナーがある。パソコンを使って、さまざまな職業、七百四職種をビデオで紹介している。
そのビデオ制作は、同機構が、同省所管の財団法人・産業雇用安定センターに委託し、同財団が提案企画競争の方式で業者を選び再委託しており、実際に制作にあたったのはNHKエンタープライズや出版社など計五社で、全体で約十六億円かかった。このうちNHKエンタープライズが請け負ったのは約五億円で、全体の約三分の一を占めた。
同財団は、同機構から請け負い、業者に再委託することで報酬約二億七千万円を得ている。同財団が業者に「丸投げ」したようにも見えるが、同機構は「財団には職業情報の収集整理業務や、制作に関する企画監修委員会の開催などを委託しており、丸投げではない」と否定する。
この赤字施設で働く、同機構の職員四十二人(昨年四月一日現在)の昨年度の人件費は約三億七千万円。一人平均の年収が約九百万円という厚遇だ。
こうして、同施設に注がれる莫大(ばくだい)な資金源である雇用保険は“瀕死(ひんし)”の状態だ。
雇用保険の保険料収入と失業給付の収支は、単年度では赤字続きだった。給付に備えた積立金残高は一九九三年の約四兆七千億円をピークに減少の一途で、昨年度には約八千五億円まで減っている。「破たん」を防ぐため、現在は、労働者らの保険料負担は増え、失業給付は引き下げられているのが現状だ。
今年六月の政府の「特殊法人等改革推進本部」の会議でも、同館について、「努力によっても採算が合わないのであれば、廃止してはどうか」との意見も出た。
NHKが赤字を指摘した同施設をめぐり、施設設計や一部展示にかかわってNHKの関連会社が事業を請け負う−という状況について、NHK側はどう考えているのか。
NHK広報局は「NHK関連団体は、NHKが定めた業務範囲の中で、番組制作など、NHKの業務を行うなかで培った専門知識、ノウハウを活用し、社会に還元している。同館の収支などについては、NHKはコメントする立場にない」と話す。NHKエンタープライズ経営企画室は「当社は、社会の各方面からさまざまな形で映像制作や展示施設制作などに関し、NHKグループとして培ったノウハウの提供を求められている。この事業(同館)もそうした事業のひとつとして、ノウハウの提供を要請され協力した。雇用保険の使い道や同館の運営について、コメントを求められても答えようがないし、答える立場にない」と話す。
だが、厚労省所管の特殊法人での勤務経験があり、「私のしごと館」の設立経緯などにも詳しいジャーナリストの若林亜紀氏は、同館の建設推進委員会に、NHKを退職した元解説委員が入っていたことに触れながら、「関連会社が請け負った仕事とは言え、NHKが『私のしごと館』の批判をできるのだろうか」と疑問を投げかけた。「雇用保険を無駄遣いをする同機構と、視聴者の受信料で運営されている特殊法人のNHKは適切な関係か、と批判されても仕方がない」
■ハコ物より雇用対策を
先の保坂氏は、こう批判する。「雇用保険料は、労働者からの預かり金で、無駄があってはならないということを、受信料を取って公共放送をしているNHKの子会社が認識しているのだろうか。失業率が下がったとはいえ、雇用環境が厳しい中で、失業保険の給付や雇用対策に振り向けるべきお金だ。結局、同機構には何かを造ることしか頭になかったのではないか」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20051218/mng_____tokuho__000.shtml