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【始まりはグランドステージ池上】
姉歯氏は「偽造の始まりは、一九九八年の東京都大田区のグランドステージ池上だった」と明かした。きっかけは「(篠塚氏から)鉄筋を減らせと相当、プレッシャーをかけられた」ことだという。さらに「何度も無理と言ったが減らせと言われた。病床の妻もいて、仕事が一切なくなると生活できなくなる。仕事がなくなってもいいと何度も思ったが、弱い自分がいて、(偽造をやめることが)できなかった」と語った。
手口についても「篠塚氏から一覧表を示され、通常、一平方メートルあたり八十−百キロの鉄筋が必要なのに六、七十キロで設計するよう指示された」などと具体的に説明した。
一方、建築主のヒューザー、シノケン、コンサルタント会社の総合経営研究所からは直接の圧力はなかったとした。
これに対し、篠塚氏は「どこの構造設計事務所にも、コストを説明する際(鉄筋量の削減など)そのようなことを引用することがある。圧力をかけた認識はない」とし、姉歯氏との関係も「そのころは知り合ったばかりか、数本(物件を造った)後ぐらい。まだ(踏み込んで)話す接点はなかった」と反論した。
【他社に替える】
姉歯氏はグランドステージ池上の設計以来、篠塚氏と打ち合わせをするたびに「鉄筋を減らせないのなら(構造設計)事務所を替えてもいい。事務所はおまえのところだけじゃない」と言われたと言い、「圧力」はその後もずっと続いたと証言した。
一方、篠塚氏は「経済設計が必要だとは、常に言ってきた。姉歯氏以外にも事務所を替えると言うことはある。それが(姉歯氏の)プレッシャーになったかどうか分からない」と述べ、圧力をかけたという認識がなかったことを強調した。
【違法性の認識】
「(鉄筋量は)ぎりぎりの世界でやってきた。これ以上やれというのは法律に触れること。(違法でも)やれということだと感じた。直接『法に触れる』と言ったことはないが、それは暗黙に理解されていたと思う」と語り、篠塚氏に「(違法性の認識は)十分にあったと思う」と証言した。また、偽造は「プロが図面を見れば分かる。私一人でできることではない」とも述べた。
篠塚氏は「あくまでも(姉歯氏を)構造のプロと認識しており、法律を犯すとは一切考えていなかった。偽造も知りませんでした」と、違法性の認識を明確に否定した。喚問後、千代田区の弁護士事務所前で取材に応じた篠塚氏は「法を犯せと言ったことはない。受け取り方で違うのだろうが、きつい言い方もしていない」と繰り返した。
■証言の食い違い
【姉歯元建築士】
▼「偽造」の始まり
1998年の「グランドステージ池上」で、篠塚氏から「鉄筋の量を減らせ」とプレッシャーをかけられたのが始まり。
▼「他社に替える」
「鉄筋の量を減らせないなら他の事務所に替える」と言われた。
▼違法性の認識
(鉄筋の量は)ぎりぎりの世界でやってきた。篠塚氏の要求は、それでもやれということだと感じた。
【篠塚元支店長】
▼「偽造」の始まり
コスト削減を説明する際、そのようなことを言うことはある。だが、圧力をかけたという認識はない。
▼「他社に替える」
「事務所を替える」と言うことは、姉歯氏以外にもある。
▼違法性の認識
姉歯氏は構造のプロだと思っていた。鉄筋の量を減らすというのも、あくまで「法令の範囲内」でのこと。
■不当な圧力4割『感じる』 立場の弱い構造設計者
「構造事務所はいくらでもあるんだよ、と毎回言われた」。姉歯元建築士は証人喚問で構造設計者の弱い立場を吐露した。今回の事件は「氷山の一角」なのか。
興味深い数字がある。偽装事件の発覚後、構造設計事務所シーエス(東京都中央区)が構造設計者百二十一人から回答を得たアンケートだ。構造設計への不当な圧力を経験したことがあると回答した人が37%の四十五人に上った。
「姉歯問題の最大の問題点」を聞くと「個人のモラル・責任感の欠如」が四十五人と最も多い一方、「構造設計者の社会的地位」が二十七人、「価格競争・コストダウンのしわ寄せ」が二十四人もあった。
自由記述では「施主の異常なコストダウン指示。やらないと仕事をよそに回すといわれれば、やらざるを得ないことはよく理解できる」「あのような建築物を建てて平気で売ろうとする詐欺にも似た行為が業界に存在する」などと業界体質を指摘する意見も目立った。
建物の安全を担う構造設計者だが、日本での地位は高くない。米国では「シビルエンジニア」と呼ばれ、デザインを担当する意匠建築士と対等の関係だという。
証人喚問をテレビで見たシーエスの水野稔社長は「構造設計者を取り巻いている環境は非常に劣悪だ。下請けに甘んじている状況を変えなければ(構造計算書偽造の)再発防止はできない」などと危機感を訴えた。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20051215/mng_____kakushin000.shtml