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2005年12月09日(金) 23時00分

泣き寝入りしかないのか--Wikipediaの名誉棄損問題が投じた波紋CNET Japan

 誰でも投稿可能なオンライン百科事典Wikipediaの中で、何者かから身に覚えのない殺人の法的責任を追及されたとしても、裁判で何とかしようという過度な期待は禁物だ。

 これは、Wikipediaに掲載されたある記事をめぐり、元ジャーナリストのJohn SeigenthalerとWikipediaの間で生じた争いから得られた教訓だ。Wikipediaは、SeigenthalerがRobert KennedyとJohn F. Kennedyの暗殺に関与したとするでたらめな内容の記事を4カ月間にわたって掲載した。

 しかし、Seigenthalerの怒りがどれほど強くても、また記事の内容がでたらめな内容であったとしても、Seigenthalerが訴訟でWikipediaに勝訴する可能性は低い、とCNET News.comがインタビューした法律の専門家たちは口を揃える。Seigenthaler自身も、USA Todayに投稿した文章の中で、その点は認めている。

 1996年に制定された連邦通信品位法(Communications Decency Act :CDA)第230条のおかげで、Wikipediaは、誤った内容の記事がサイト上に掲載されていた期間を問わず、名誉毀損の法的責任を免れることになりそうだ。というのも、WikipediaはSalon.comやCNN.comといった出版社ではなく、あくまでサービスプロバイダだからだ。

 米スタンフォード大学ロースクールのCenter for Internet and Society(CIS)のエグゼクティブディレクターJennifer Granickは、「(Wikipediaには)一切法的責任はないと考える」と述べ、さらに「(CDAの)第230条により、(名誉毀損の法的責任が)免除される」と語った。

 78歳のSeigenthalerは、11月29日付のUSA Todayの投書欄に、Wikipediaを痛烈に批判する投稿を行っている。その中で同氏は、「(Wikipediaに掲載された元の記事の中で)真実は、私がRobert Kennedyの補佐官だった、という一文だけだった」と記している。その記事を執筆したのは匿名のユーザーで、身元を辿る唯一の手掛かりとなっているのは大手インターネットサービスプロバイダ(ISP)BellSouth Internetのアカウントだけだ。しかし、BellSouthは執筆者の名前は公表しないだろう、とSeigenthalerは付け加えている。

 さらにSeigenthalerの投稿によると、同氏はWikipediaに対し再三にわたって抗議したにも関わらず、10月5日にその不快な記事を削除するまでにWikipediaがとった唯一の行動は、その記事が投稿された日の3日後の5月29日に行ったスペルミスの訂正だけだったという。

 Wikipediaは5日、今後、無登録ユーザーによる記事の投稿は認めないと発表した。Wikipediaの会員は、登録時にいくつかの個人情報を提示しているので、自分が書き込んだ記事の内容についてより大きな責任を負うことになる、という理屈だ。しかし、Wikipediaへの登録にはわずか数秒しかかからず、メールアドレスの提示すら義務付けられていない。

 無論、Wikipediaの法的地位はまだ裁判で検証されてはいない。それまでは、オンライン百科事典として急成長を続けるWikipediaが、投稿された記事の内容について法的責任を問われないと断言することはできない。現在Wikipediaには、英語で書かれた記事が85万3630件掲載されており、また英語以外の十数カ国語で書かれた記事の総件数は、英語の記事の数を100万件以上も上回る。また2004年10月には1万6061人だった登録ユーザー数は、2005年10月末には4万5351人にまで増加した。

 しかし、オンライン市民団体 Electronic Frontier Foundation (EFF) の顧問弁護士を務めるKurt Opsahlは、Wikipedia上の匿名の投稿内容に不満を抱いているSeigenthalerのような人々は、掲載サイトに対して取り得る法的手段がないことに気付くだろう、と指摘する。というのも、サービスプロバイダの法的責任を免除しなければ、資金力があり、かつ慎重なメディア企業しかサードパーティのコンテンツを掲載できなくなってしまう、というのが米議会の判断だからだ。

 Opsahlによると、サービスプロバイダの法的責任が審理の対象となった最も有名な裁判の1つである、ZeranとAmerica Onlineの訴訟で、フィラデルフィアにある第3巡回区連邦控訴裁判所は、AOL、Amazon.com、WikipediaなどのオンラインサービスはCDAで保護されている、との明確な判決を下したという。

 第3巡回区控裁は1997年に作成された意見書の中で、「本来であればサービスの第三者ユーザーによって書き込まれた情報についてサービスプロバイダが法的責任を負うことになる訴訟原因が発生しても、プロバイダは法的責任を免除される、とCDA第230条に明確に規定されている」と述べている。Opsahlによると、CDA法案が議会で可決される以前は、コンテンツを編集するための措置を講じていたサービスプロバイダが、そのような措置を講じていなかったプロバイダよりも重い責任を負うのか否かについて、法的環境は不明瞭だったという。

 国際法律事務所DLA Piper Rudnickのパートナーで、サンフランシスコを拠点に活動しているRoger Myers弁護士は、「議会が(CDA)法案を可決した理由の1つは、自ら管理するインターネット上のスペースが世間の監視の目にさらされているサービスプロバイダなどを、保護することにあった」と述べ、さらに「議会はこの件についてはかなり明確に主張していた」と付け加えた。

 さらにMyersによると、過去の訴訟で、サービスプロバイダが中傷的な内容の情報の存在に気付いていたにも関わらず、その情報を削除しなかった場合には、同プロバイダは何らかの法的責任を負う、との判決が下された例は過去に1度しかないという。しかし、BarrettとRosenthalの間で争われたその訴訟の判例は、現在カリフォルニア州の最高裁判所で再検討されているため、現在は引用不可能な状態にある。つまり、将来の訴訟において過去の判例として使用することはできない。


この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。 海外CNET Networksの記事へ

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