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「まさかあのマンションでこんな問題が起きるなんて。購入を検討していただけにいまだに信じられない気持ちですよ」
東京都江東区のマンションに住む会社員(36)はこう振り返る。“あのマンション”とは姉歯建築設計事務所が構造計算書を偽造し、国土交通省が「倒壊の恐れがある」と指摘している同区内の「グランドステージ住吉」。マンション業者らでつくる「日本住宅建設産業協会」に今年五月、「中高層」部門で優秀賞にも選ばれた“優良物件”だ。
賃貸マンションからの住み替えを考え、いくつかの物件を物色中、たまたま歩いていける距離にあったため、ちょうど一年前、妻と見学に行った。
「既に高層の大型物件しか残っていなかった。それと、営業マンがかなり強引だったため心証が悪くなり結局見送った」
今は江東区の別の分譲マンションに住む。「自分はたまたま見に行っただけだが、人ごととも思えない。自分のマンションは大丈夫かと思う。じゃあ、問題が発覚したとしてどう対応すればいいのか。思い悩むことを想像すること自体が苦しい」と胸中を明かす。
「姉歯物件に限らない。マンションに住んでいる人は皆不安でしょう。本当に大丈夫なのかきちんとした証明がほしいんです」
千葉県柏市の会社員(41)はこう訴える。
一昨年十一月に十四階建てマンションの七階に4LDKを三千六百万円で買った。
「契約のとき、耐震構造など一通りの説明はあったと思う。問題点も感じなかった。だからこそ、マンション完成後に発覚した耐震強度偽造問題は深刻だ。契約前なら、業者はいろいろ資料も出してくるでしょう。買った後はどう説明してくれるのか」
柏市は首都圏のベッドタウンとしてここ数年マンション建設ラッシュという。
「都心と異なり、庶民が手を出しやすい物件が多いのが魅力。しかも、九十平方メートル以上で二千万円台の物件も出てきた。かみさんと『鉄筋はきちんと入っているのかな』と話してる」としながらこう危ぶむ。
「問題マンションの建築主ヒューザーに限らず販売競争で豪華な内装ながらコストを削ったマンションは多いと思う。住んでいる以上、どこがどれくらい安普請なのか知っておきたい」
埼玉県新座市の自営業男性(41)は四年前、二十一階建てマンションの十五階に3LDKを約五千万円で購入した。今も保存している当時のパンフレットには耐震性について高い評価が記され「建物自体は百年はもつ」と書かれている。
最近はマンションの廊下を歩いていても、つい壁をトントンとたたいてしまう。「あっ中身は空洞だ。これでいいのかな」と思うが、自分では判断がつかない。「パンフレットの内容が本当なのか、調べる手だてがあるといい。本当のことが知りたい」
自分のマンションの安全性を確かめ自衛策を立てるにはどうしたらよいのか。
国民生活センターの建設相談アドバイザーで一級建築士の伊藤学氏は「まず、マンション管理組合に保管されているはずの竣工(しゅんこう)図をめくり、その中の仕上げ表を確かめるべきだ」と解説する。設計の予定を示すのが設計図なら、できあがった結果を示すのが竣工図。仕上げ表から塗装された外壁の下地の種類などが分かるという。
今、問題になっている構造計算書ももちろん重要だ。ただ、「建築確認を担当した地元自治体の保管期間は五年間。その後は構造設計を担当した業者に当たる必要がある。業者は永久保存しているはず」という。
伊藤氏は、こうした書類を入手したうえで、第三者の建築士に書類を点検してもらうことを勧める。「ここで、マンションが書類通りに建てられているかをチェックするのです」
それがOKでも安心は禁物だ。次に、外壁などの鉄筋の入り具合を調査する必要がある。RCレーダーという磁気反射装置で鉄筋の本数、間隔を探り、エックス線装置で鉄筋の太さを確認する。しかし、費用がかかるうえ、これらの装置でも、柱と梁(はり)のジョイント部分など入り組んだ部分は、完ぺきには見えないことがあるという。しかも、手抜き工事が行われやすいのは、このジョイント部分だという。
では、実際、地中に刺さってマンションを支えているくいの深さなどは確認できるのか。建築関係者は「ボーリング調査すれば可能だが、ものすごい費用がかかる。現実問題として、無理ではないか」と明かす。
二〇〇〇年十月に「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づき「住宅性能表示制度」もスタートした。マンションなどの設計、建設に目を光らせる制度で、地震への強度も評価内容に含まれているが、どこまで“頼りになる制度”なのだろうか。
建築基準法でも地震に対する最低限の強度が定められているが、性能評価では一から三の等級に分かれており、建築基準法の規定に相当する「一」の内容は、「震度6強ないし7に対して倒壊、崩壊しない」などとなっている。「二」「三」は、それぞれ「一」の一・二五倍、一・五倍の強度を意味するという。
性能評価は、国の指定を受けた百八の評価機関が行っているが、評価機関が建設業界と親密になり手心を加えることはないのか。国土交通省の担当者は「資本関係、役員関係などで、建設会社の子会社化されている機関はないと思う。公正な評価を行わない機関には監督命令を出したり、厳しい場合は指定取り消しを行う」と強調する。
あるマンション大手デベロッパーには、各地のマンションの管理組合などから今回の問題に関し問い合わせが相次いだが「姉歯建築設計事務所との取引がないことを説明し、安心していただいている」という。同社は「住宅性能表示制度」開始時から評価機関のチェックを受けていることをホームページで説明、「評価機関の立ち入り検査も受け、設計時点と建設時点の二種類の住宅性能評価書をもらっている」と訴える。
もっとも、この住宅性能評価は義務ではない。国交省の関係者は「法律にすると、既にある建築基準法との二重基準になってしまうため、この評価を受けるか否かは任意。この制度により、建設業界は低価格競争一辺倒とならず、品質競争も促されたはず」との見方を示すが、品質競争に参加するしないは、マンション業者のハラ一つなのが実情だ。
調査業者選びについて前出の伊藤氏はこうアドバイスする。
「素人のような業者に『安全です』と言われて安心すると、さらに危険。客観性が担保される、日本建築家協会や国民生活センターなどに相談し、適正な業者を見つけてほしい」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20051129/mng_____tokuho__000.shtml