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ご飯と生卵、しょうゆだけでおいしく食べられる卵かけご飯。このシンプルで懐かしい食事が今ブームとなっている。島根県では「日本たまごかけごはんシンポジウム」が開かれ、卵かけご飯の歌もCD化された。権威ある賞を受けた海外向け料理本でも紹介されるなど、世界へも発信されている。
ブームの引き金となったのは、島根県旧吉田村の第3セクター「吉田ふるさと村」が2002年春に売り出した卵かけご飯専用しょうゆ「おたまはん」だ。「卵の風味を引き立てるまろやかなしょうゆ」を目指してかつおだしとみりんを配合したところ、インターネットなどで評判が広がり、これまでに約30万本を売る大ヒットとなった。
これに勢いを得て、「今度は地元の米と卵で味わってもらおう」と合併後の雲南市で10月末、シンポジウムを開いた。参加者は3日間で延べ約2500人に達し、かまどで炊いたご飯で卵かけを堪能。シンプルな中にも奥深い食文化を楽しみ、極めていこうと宣言し、10月30日を「たまごかけごはんの日」と定めた。
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シンポジウムでは、寄せられた作文やレシピなどのコンテストも行われた。
作文で最優秀作品に選ばれた広島県三原市の山根幸子さん(69)は、92歳で6年前に亡くなった母親への思いを、卵かけご飯に重ね合わせた。
食欲が落ち、やせて入れ歯も合わなくなった母に、どうやったら食事をしてもらえるだろう——。途方に暮れた時にふと思い出したのが、幼いころ、風邪をひいた時に母がつくってくれた卵かけご飯だった。
「母は、ゆっくり歯のぬけた口を動かしながら食べる。(よかったっ)私は、涙をポロポロこぼしながら母の口にスプーンをはこんだ」と山根さんはつづる。
レシピ部門で最優秀作品に選ばれたのは兵庫県西宮市の有馬真貴子さん(41)の「今昔コケコッコごはん」。卵のほかに、たっぷりの青じそにしば漬け、すだちを添えた彩り豊かな一品だ。
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歌は東京都江東区のFMラジオ局「レインボータウンエフエム」の番組で誕生した「クルクルたまごごはん」。出演者のタレント真琴いづみさん(24)が昨年6月、好物の卵かけご飯を、—たまごを割ってクルクルクルクル おしょうゆ入れてクルクルクルクル——と即興で歌にしたところ、大人気に。
共演者のシンガー・ソングライター井亀明彦さん(27)が曲をつけてCD化。「クルクル」に合わせて手を回す振り付けも好評で、イベントなどの出演依頼が相次いでいる。
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今年2月、“料理本のアカデミー賞”とも称されるグルマン世界料理本大賞グランプリに選ばれた、料理家の栗原はるみさん(58)の「栗原はるみのジャパニーズ・クッキング」。その中で、「日本のファストフード」として「TAMAGO GAKE GOHAN」が堂々紹介されている。
「炊きたての白いご飯があると時々、無性に食べたくなります」という栗原さんにとって、卵かけご飯は、数ある卵料理の中でも常にベストスリーに入る存在だという。
「外国では生の卵を食べる習慣があまりないので、非常に日本っぽい食べ方をぜひ外国の人にも伝えたいと思って、『日本料理』の一つに選びました」と話す。
ただ卵の生食にはサルモネラ食中毒の恐れもある。厚生労働省によると、殻の破損やひび割れがある卵は危ない。またお年寄りや乳幼児、妊娠中の女性は生食を避けるよう呼びかけている。
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日本人の生卵好きには歴史がある。食文化史研究家の永山久夫さん(73)によると、江戸時代には町人の間で卵かけご飯が食べられていた。江戸後期の川柳に「生たまご醤油(しょうゆ)の雲にきみの月」とある。「器に盛った卵の黄身を月に、しょうゆを雲と見立てる。こんな風に食を楽しむゆとりがあったんですね」
とはいえ卵は長い間、病気などの時にしか食べられない高価なものだった。それが庶民の味になったのは昭和30年代後半からだ。
「戦後、世の中が落ち着いて白米が食べられるようになり、あこがれだった卵かけご飯が食べられるようになった。その後の高度成長期を支えた日本人の栄養源は、もしかしたら卵かけご飯だったのかもしれませんね」。永山さんは卵かけご飯ブームの背景に、30年代への郷愁を見ている。
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