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2005年11月19日(土) 00時00分

マンションラッシュに落とし穴 建築確認担う民間機関 東京新聞

 耐震設計に必要な構造計算書が、書類作成を請け負った建築設計事務所によって偽造されていたことが分かった。そのチェックを任されていたのは「指定確認検査機関」という民間機関。これまで自治体などが行ってきた建築確認申請を審査している。民間にできることは民間に任せる「官から民へ」の一環だが、マンション建設ラッシュが続くなか、落とし穴はなかったのか。 

 「設計書類を再チェックすると、すぐに気づきますよ。専門家ならパッと見れば分かる。率直に言って、指定確認検査機関がしっかり見ていなかったのではないか」

 姉歯(あねは)建築設計事務所が作った書類を急きょ再検査している東京都中央区の担当者は、あきれながらこう明かす。同区では、ホテル、マンション各一棟で構造計算書の偽造が見つかった。

 今回、「姉歯」は設計業者の下請けとして構造計算書を作成していた。元請けの設計業者は、「姉歯」のずさんな偽装を見抜けなかったのか。

 そのひとつの不動産会社「シノケン」役員は「うちの社名で建築確認申請をしているので、全く偽装をチェックできなかったという言い逃れはできない。応分の責任はあると思う」と認める。その上で、「ビジネスは信頼関係に基づいてやっている。すべての書類をひっくり返してチェックするのは難しい」と強調する。

 姉歯秀次・一級建築士がコスト削減の圧力を感じたと発言したことについては、こう言い切る。

 「うちはマンションの設計・施工を下請けに出しており、(下請けから孫請けの『姉歯』に仕事が回ったため)『姉歯』の存在も知らなかった。うちが下請けにコスト削減のプレッシャーをかけ、そこが『姉歯』に圧力をかけるなんて構図はない。ムダを削る努力はするが、法令を犯してまでするわけがない。うちはある種、被害者だ」

 国土交通省によると、建築確認を代行する民間検査機関は、阪神大震災時に建物の倒壊が相次いだことを受け、一九九八年の建築基準法改正で設立された。

 建築確認業務の民間開放の一環で、同検査機関は毎年増加=グラフ。今年九月現在で百二十二機関にのぼる。うち株式会社が五十法人(二〇〇四年現在)と一番多く、財団法人、社団法人などは計四十六法人(同)とほぼ同規模だ。

 「財団法人、株式会社を問わず、『建築確認』が民間開放されたとき、役所で建築主事として業務に従事した経験のあるOBを採用してスタートしたところが多かった」と、ある大手の検査機関幹部は指摘する。

 一方で、姉歯建築士が仕事に追われていたと説明しているように、背景にはマンション建設ラッシュもある。首都圏では、バブル経済崩壊後の九二年に分譲マンション着工戸数は約四万五千戸まで落ち込んだが、その後増加傾向に転じ、二〇〇〇年から〇四年は十一万五千戸前後の高い水準で推移している。

■5年前全体の1割、昨年5割超

 これに伴い、民間の検査機関が設計審査を行う確認件数は、五年前の二〇〇〇年が全体の約一割だったが、昨年度は約七十五万件のうち56%に達した。今回、マンション五棟で計算書偽造が分かった千葉県船橋市では「年間約四千件前後の建築確認申請が出されるが、うち八割以上を民間の検査機関が扱う」という。

 検査機関の受注が増えたことについて、建築主側の関係者は「建築申請側にとっての最大のメリットは審査期間の短縮。自治体による審査は早くても一カ月かかるのに対し、民間の検査機関では一、二週間で確認が下りる場合もあり、助かる」と話す。

 検査機関側も「役所の担当者はいくつもの業務を兼務しており、事務量が膨大で時間がかかるが、われわれは建築確認が本来業務なので、役所よりスピードが速いというのが売り物。懇切丁寧に対応している点も申請者側から評価されているのでは」と話す。

 しかし、住民にとり最も重要な構造計算書が偽造された上、設計、施行、検査のいずれの段階でも、この不正行為が見抜けなかった。「姉歯」が偽造したとされる建物の建築確認審査を担当した検査機関「イーホームズ」は十八日の記者会見で「偽造は非常に巧妙で分かりにくい。われわれは検査機関として適切に業務をやっている。過失はなかった」と主張。逆に十月の内部監査で偽造が分かったとした上で「通常の審査業務で発見できなかった偽造を見破った」と強調する。

 だが、ある大手の設計会社は「言語道断の行為」とした上で「大手の場合、設計と構造計算は分離せず、一体的にやるのが一般的だが、専門家がみれば、例えば設計図と構造計算書を見比べて、鉄筋の量が足りないとかはすぐに分かる。また施工段階でも、二重三重にチェック可能で、偽造された構造計算をもとに建物が完成することなどありえない」と首をひねる。

 中堅ゼネコン幹部も同様の見方を指摘、不正が見破れなかった原因について「検査機関も細かくチェックしていれば、見抜けたはずだ。しかし、構造計算書は膨大な量で、全部見ると時間がかかるため、ポイントだけチェックしたのではないか」と推測。その上で「(姉歯が)『コスト削減のプレッシャーがあった』と言っているように、そこには安全性より利益優先の発想があったと言われても仕方ない」と批判する。

■『検査機関 能力ない』

 構造技術者が一九八一年に設立した「日本建築構造技術者協会」幹部は「日本の建築確認は、まさに確認するだけ。構造計算書も書類をぱらぱらと見る程度で、もともと検査機関にチェックする能力はない。欧米では、構造計算については建築構造士などの専門家がチェックする」とそもそもの能力を疑問視する。

 国交省は「姉歯」と元請け会社を建築基準法違反容疑で告発する方針だが、人命にかかわる設計の審査を民間に任せることに問題はないのか。「欠陥住宅関東ネット」事務局長の谷合周三弁護士は「建築確認が民間に開放されて、速く安くという傾向が出ている。当時の同法改正には私たちも、日弁連も反対した。第三者のチェックをどう担保するかがポイントだったが、事実上、施工業者に関係する検査機関をつくることも可能だ。行政なり第三者の建築士がきちんと検査する仕組みにすべきだ」と指摘する。

 法政大学の五十嵐敬喜教授(公共事業論)は「一体誰が責任を取るのか。一義的には姉歯建築士に責任があるが、個人では賄いきれない。検査機関も同様。施工業者は図面通り造っただけだと言うだろうし、行政は民間の問題だと言う」と無責任な制度を批判、その上でこう話す。

 「問題は、起こるべくして起きた。マンションの周囲の住民にも危険が及ぶ。最大の原因は、建築確認を民間に開放したことだ。非常に公共性が高く、民間委託すべき問題ではない。最終責任は行政が取るべきなのに、街づくりの根本の建築行政が空洞化してしまっている。一番大切な安全性という根本問題を民間に委ねてしまった国交省、国会の責任は大きい」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20051119/mng_____tokuho__000.shtml