2005年11月07日(月) 14時25分
<リフォーム詐欺>営業マン、言葉巧み 「幸輝」元社員逮捕(毎日新聞)
急成長を続けてきたリフォーム業界の大手「幸輝」(本社・大阪府吹田市)に7日、埼玉県警と京都府警の強制捜査が入った。捜査の容疑とは別の被害者が毎日新聞に語った幸輝の手口は、屋根の補強工事で写真を見せて相手を信用させ、「安い材料が手に入る」「シロアリ駆除の神様を紹介する」などと次々に高額な工事を迫るものだった。契約額は幸輝の分だけで約600万円、他業者の分を合わせると約1100万円に膨らんだ。こうした被害が全国に広がっているとみられる。【村上尊一】
◇工事後の写真見せ、信用させる手口
証言したのは埼玉県東部に2人で暮らす70代の母親と40代の息子。02年2月、家に来た営業マンに「屋根のしっくいが良くない。見てもらったことはありますか」と言われた。屋根に上った営業マンは何かを持ち出し、「これがはがれているから雨漏りする。このままでは屋根が悪くなる」と説明。しっくい工事は1日で終わり、17万円を払った。
その日のうちに「屋根裏の湿気が多くて大変だ。腐食する可能性がある」と屋根の補強工事と断熱材の購入を勧められた。母親が契約を渋ると、営業マンは携帯電話で「監督」と話し、「近くの現場で余った材料を使って安くできる」と迫ってきた。結局、50万円の契約を交わした。
数日後、今度は別の営業マンが訪ねてきた。この家の屋根を補修した「工事写真帳」を見せ、「仕事するからにはお客さまが納得できるものを残します」と説明。母親は「写真まで見せてくれて親切だった。それで信用してしまったが、写真をくれたのは初めだけ。信用させる手口だったのかも」と振り返る。それから2カ月の間に、外壁の補修工事、浴室改修工事、内装工事と、営業マンは次々にリフォームを持ち掛け、母子は言われるままに契約した。
一連の工事が終わった02年9月、最初の営業マンが再び来た。「今日は尊敬する人を連れて来ました。阪神大震災で活躍した神様のような人です」と、シロアリ駆除会社の社員を紹介された。母親は床下調湿剤や床下換気扇など総額約500万円の契約を交わした。
昨年5月、駆除会社の従業員3人が特定商取引法違反容疑で埼玉県警に逮捕された。“神様”を紹介した営業マンも翌月、架空工事で約100万円を振り込ませた同容疑で逮捕された。驚いた母子が幸輝に問い合わせると、「(その営業マンは)すでに退社した。当社は何もできない」とだけ告げられたという。
◇01年参入急成長 被害相談相次ぐ
詐欺などの容疑で家宅捜索を受けた「幸輝」(本社・大阪府吹田市)は、2年前に中国で社員による集団買春が問題化した会社だった。01年のリフォーム業界参入以来、大幅に業績を伸ばす一方、各地の消費生活センターには被害相談が相次いでいた。
民間の信用調査機関によると、通信機器の販売を目的に92年に設立された同社が、リフォーム業界に参入したのは01年8月。11月期決算での経常利益は01年が2500万円、02年約1億1200万円、03年約2億4000万円、04年は6億4000万円と好調に業績を伸ばした。
同社は、01年に埼玉、03年に東京、04年千葉、名古屋と支店を順次開設し、営業エリアを拡大。昨年11月決算での売り上げは64億5500万円で、その95%を住宅リフォーム部門が占めた。
中国での集団買春があったのは、リフォーム業参入から2年後の03年9月。福利厚生の一環としての中国旅行での話で、社員3人が中国当局から国際手配されたが、同社は「一部社員による暴走によるもの」と、社としての関与は否定している。
一方、国民生活センターによると、同社に対する相談件数は、01年度10件だったが、02年度は105件、03年度218件、04年度314件と急増した。今年6月には、統合失調症の京都市の男性(63)が不要な改修工事契約を結ばされたとして、同社に計236万円の工事契約の取り消し確認などを求めて京都地裁に提訴。先月19日、契約の解除で和解が成立している。
◇組織的な詐欺の実態、どこまで解明できるか
埼玉県富士見市の老姉妹へのリフォーム被害を毎日新聞が今年5月に報道して以降、埼玉県警は立件を目指して捜査を続けてきた。しかし、認知症のために姉妹の被害認識は薄いだけでなく、「話を聞くたびに状況が変わる状態」(捜査員)で難航した。
このため、県警は姉妹宅に出入りした19業者を中心に、他の被害状況などを調べるなどした結果、各地の消費生活センターへの相談が相次いでいた「幸輝」が浮上。悪質性が高いと判断し、同社に狙いを定めた。それでも、「公になって恥をかきたくない」「カネが返ってくればいい」などの理由で、被害者から協力を拒まれるケースも多かった。
一方、京都府警も、全国の警察挙げてのリフォーム被害の捜査の中、関西地方の消費生活センターへの被害相談が続出していた幸輝が捜査線上に浮かび、警察への被害相談のあった事例に基づき、捜査を進めた。同じ会社をターゲットに捜査を進めていた両府県警は先月下旬、極秘の捜査会議を開催。互いの捜査の進ちょく状況を確認するとともに、強制捜査に乗り出すことを確認した。
埼玉県警が元従業員2人の逮捕に踏み切るのに合わせて、京都府警は証拠隠滅を防ぐことも狙いに別容疑で本社を捜索した。両府県警が押収した資料の分析で、被害総額も特定されるとともに、同社の悪質さが浮き彫りにされるだろう。今後の捜査は、同社の組織的な詐欺の実態をどこまで暴き出せるかにかかっている。【酒井祥宏】
◇大阪府の本社捜索 戸惑う社員
大阪府吹田市の幸輝本社には午前8時15分、京都府警の約10台のトラックや乗用車が到着。捜査員約45人が段ボール箱を手に5階建ての本社ビルに入り、捜索を始めた。ある社員は「会社からは何も聞かされていない」と戸惑い気味だった。
東京都大田区の東京支店には、午前7時45分に埼玉県警の捜査員約20人が捜索に入った。近くに住む建設会社の男性社長(38)は「うちもリフォームを手がけているが、こんな事件が起きると同業者として仕事がやりづらくなる」と憤っていた。【隅俊之、佐々木洋】
(毎日新聞) - 11月7日14時25分更新
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