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政府に恋路をじゃまされるという、思いもかけない目にあったのは東京都在住で、IT関連企業に勤めるサラリーマンAさん(49)。
前妻との間に三人の子をもうけながら、ゆえあって離婚したAさんは、八十代の父と七十代の母を、ひとりで世話しなければならなくなった。
そうこうするうちに、友人筋から見合い話が舞い込んだ。見合い相手が、中国在住の女性という点は、ちょっと変わっていたが、「フィリピンまで集団見合いに行く男性も多い」と聞いていたAさんは、気にも留めなかった。
まず、友人に紹介されたのは日本人男性と結婚し、「日本人の配偶者」という在留資格も取得している中国人女性。見合い相手は、この女性の妹Bさん(33)だった。とはいっても、Bさんは吉林省に住み、地元のデパートで美容コンサルタントとして働いている。仕事に追われるAさんは、気軽に訪中できる立場でもなかった。
Aさんは、Bさんの姉を何度も訪ね、Bさんの生い立ちや性格、日常生活を詳しく聞かせてもらった。どうやら、仲良くやれそうだし、Bさんは年老いた両親のことを、やさしく面倒見てくれる性格のようだ。あとは、実際に会ったフィーリングで決めよう。
そう思い立ったAさんは二〇〇三年九月、仕事の合間を縫って吉林省に飛んだ。
「抱いていたイメージと寸分違(たが)わぬ女性でした。初対面という気がせず、すぐにプロポーズ。妻(Bさん)の快諾を得て、数日後に婚姻届を出し、吉林省民政庁から結婚証明書をもらったんです」
■4度申請、なお通じず
Aさんは、帰国後の同年十月、東京都清瀬市役所にも婚姻届を出した。両親と同居可能なマンションも購入し、久しぶりに、ほのぼのとした新婚生活が始まる…はずだった。
しかし、事態は暗転する。日本人である自分と結婚したのだから、妻には「日本人の配偶者」という在留資格が、ごく当たり前に付与され、間もなく、来日できると考えていたAさんを、思わぬ結果が待ちかまえていた。
Aさんが同十一月に東京入国管理局にBさんの在留資格認定を申請すると、東京入管からは「不許可」との判断が出されてしまったのだ。
「えっ、なぜ?」。わけが分からず混乱するAさん。理由を尋ねるAさんに、入管が返した回答は、理由にもならない「理由」だった。
いわく「(夫婦間の)コミュニケーションが取れていない」。いわく「日本と中国は文化が違う」。さらに昨年四月と九月、今年二月と、何度も妻の在留資格を求めたが、理解しがたい理由で、入管から拒絶され続けている。
■『偽装結婚と疑わないで』
「コミュニケーション不足というけれど、妻は日本語を勉強し、複雑な言い回し以外は理解できます。私も中国語を勉強中だし、辞書の文字を指でさして、気持ちを説明し合うことも、また、楽しいのです。これでも、コミュニケーション不足と言われてしまうのですか」。Aさんは嘆く。
度重なる冷たい仕打ちを受けて、Aさんは今、「偽装結婚と疑われているのではないか」と思い始めている。お人よしのAさんは「初対面でのプロポーズだったから、入管の人も変だと思ってしまったのでしょうかね」と、怒りの対象となるべき入管の立場まで考慮してしまうのだった。
「国民がいつ、プロポーズしようと、入管が口出しすることではない」「文化が違わない国際結婚があったら、入管に教えてもらいたい」と怒りだす知人を前に、Aさんは弱り切った表情だ。
入管からは「結婚後の一年間に、一度も訪中していないのはおかしい」とも指摘された。本当は、仕事が忙しくて行けなかっただけなのに。Aさんは、ようやく取れた休日を使い、その後、二度、訪中。来月も訪中する。中国で挙げた結婚式の写真や夫婦のスナップ写真、妻からの手紙、国際電話の通話記録まで入管に提出し、涙ぐましい努力を重ねている。
それでも、出ない。こんなに個人情報を提出しプライバシーをさらしても、在留資格が出ないのである。
「何が、いけないのでしょうか。はっきりした基準を教えてほしい。そうしたら、基準を満たせるように努力します」とAさん。
「入管が基準を示さないため、何がいけないのか、当事者にはさっぱり分からないというのは、実は珍しいことではない」と指摘するのは、手弁当で来日アジア人の支援活動をしている都内の男性。「中国人と結婚する場合、以前は申請後半年から八カ月で在留資格が出たが、三年ほど前から厳しくなった。コミュニケーション不足という理由で不許可にされるケースは多い」
「子どもたちも『新しい奥さんと仲良くするからね』と言ってるし、前妻も理解してくれてるんです。両親も『あの子(Bさん)は、いつ来るの』と楽しみにしているんですが」。Aさんの気持ちは、まだ、踏みにじられるのだろうか。
◇ ◇
入管に引き裂かれた国際カップルは、たくさんいる。
神奈川県相模原市の日本人男性(53)と結婚したネパール人グルン・シタ・クマリさん(36)のように、実態は「日本人の配偶者」でありながら、在留特別許可を申請後、オーバーステイで警察に逮捕され、入管から国外退去処分を出された女性もいる。
この処分取り消しについて、東京地裁でグルンさんと係争中の東京入管は「同居を証言する近隣住民はいなかった」と主張していたが、今年二月、実はグルンさん夫妻の同居を入管に証言した住民がいたことが、明らかとなった。不利となる証言は裁判官にも隠す入管の“執念”に、夫妻の友人らは「偽装結婚ではない、本当の夫婦をいじめて何が楽しいのか」と、あきれ果てている。
■入管収容者に日本人配偶者
そんな入管をよそに、近所の日本人主婦たちは、グルンさんを自宅に招くほどの仲になっている。夫は裁判のため、平日に仕事を休んだ影響で、今までより条件の悪い会社に変わらざるを得なかったという。
今年六月には、入管施設に長期収容(半年以上)されている外国人が約百三十人おり、その四分の一近くが、日本人の夫や妻であるという法務省の内部データが明らかになった。法律家らは「国連の国際人権規約(B規約)が定める『家族の結合権』が侵害されている」と指摘している。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20051021/mng_____tokuho__000.shtml