悪のニュース記事

悪のニュース記事では、消費者問題、宗教問題、ネット事件に関する記事を収集しています。関連するニュースを見つけた方は、登録してください。

また、記事に対するコメントや追加情報を投稿することが出来ます。

記事登録
2005年10月05日(水) 00時00分

個人情報の提供、民生委員に拒否読売新聞

「防災弱者」名簿すら作れぬ

 一人暮らしのお年寄りや障害者など、災害時に援護が必要な「防災弱者」を守るための自治会の名簿作りなどが各地で難航している実態が、読売新聞の取材で浮かび上がった。各自治会では、4月に全面施行された個人情報保護法の影響で、地方自治体が守秘義務のある民生委員にも個人情報を提供しなくなったり、住民意識も変わり始めたためと受け止めている。災害時に備えた名簿や情報伝達の整備は、内閣府が3月に作成した要援護者の避難支援指針で市町村に求めているが、名簿作りは自治会が中心になっており、個人情報保護法の施行が思わぬ波紋をもたらしている。

 千葉県柏市北部の豊四季台団地には、約33ヘクタールの土地に5階や8階建ての賃貸住宅が並ぶ。約4850世帯、約1万人が住むUR都市機構(独立行政法人都市再生機構)の大規模団地だ。

 同団地自治会の伊東将二会長(71)によると、昨年、死後何日もたって発見され、伊東会長が立ち会った団地内の「孤独死」は、10人以上にのぼった。いずれも自治会に入っていない人ばかりだった。

 同自治会はこれまで民生委員(現在15人)を通じ、市から団地内の一人暮らしのお年寄りの情報を得てきた。民生委員は地域に密着して相談に乗り、民生委員法で守秘義務がある。ところが、個人情報保護法の全面施行を控え、市は昨年から民生委員にも「個人情報は出せない」と言い始めた。

 同自治会に加入しているのは現在、団地住民の約65%。約600世帯とみられる一人暮らしのお年寄りも、半数程度しか把握できていない。民生委員が各戸を回り、郵便物がたまっていないか、夜も昼も電気やテレビがつけっぱなしになっていないか確かめるが、安否確認を断る人もいる。

 伊東会長は、「個人情報保護法が拍車をかけているのは間違いない。名簿に名前がないから手探りでやるしかないが、事態は深刻だ。お上は机上で考えるだけ。何とかしてほしい。敬老会に誰を呼んでいいかすら分からない」と話す。

 昨年7月の水害で死者を出した新潟県内や、東京都心などでも、要援護者の名簿作りを進めているが、本人の同意が得られにくく、作成が難航しているケースは少なくない。

そがれる「地域力」…町会入らず、役所からの情報もなし

 1995年の阪神大震災の時、救出作業や避難所での炊き出しなどで大きな力になった地域住民の助け合い。しかし、その教訓を生かすはずの地域の連携に支障を来しているのは、千葉県柏市の豊四季台団地だけではない。個人情報保護法への過剰反応は、様々な場面に影を落としつつある。

 豊四季台団地と似たような事情を抱えているのは、199の町会を束ねる東京都新宿区の同区町会連合会。会長の大崎秀夫さん(70)は「よそから引っ越してきても、『個人情報だから電話番号などは出したくない』と、町会に入らない人が増えている」と話す。

 オートロックマンションやワンルームマンションも、悩みの種だ。同区に住む65歳以上は、約5万2500人。災害発生時に自力避難の困難な高齢者や障害者らのうち、支援を求めることに同意した「災害時要援護者」に登録しているのは、1020人に過ぎない。

 大崎さんは「個人情報保護は時代の流れだと思うが、災害時にはすべての人が巻き込まれる。個人情報を教えなかったことが、生命や財産を危機に陥らせることもある。自分を守るため情報提供することも必要ではないか」と呼びかける。

 だが、災害時要援護者の登録が多ければ、万全というわけでもない。今年3月、福岡県西方沖地震に襲われた福岡市。民生委員らでつくる協議会が市と共同で作成した「災害時要援護者台帳」には、約2万9000人が登録されていたが、活用方法に課題が残った。

 民生委員たちは、守秘義務のない自主防災組織には登録された個人情報を提供できないと受け止めていた。このため、約2100人の民生委員の7割近くは、一人でお年寄りらの安否確認に走った。協議会では今、要援護者一人一人に個人情報を自主防災組織に提供して良いか確認しはじめたが、「提供してもいいという人はかなり少なくなる見込み」という。

 新潟県では昨年の水害を機に、「災害時要援護者名簿」を作り、地域住民や消防団などで共有する取り組みを進める自治体もあるが、「本人の同意が必要」としてリスト作成自体に及び腰のところも多い。9人の犠牲が出た三条市では、要援護者の6割程度しか同意を得られず、いざというとき、同意していない人にどう対応するかが課題という。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe6000/fe20051005_01.htm