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2005年08月27日(土) 19時56分

<悪質リフォーム>高報酬求めた”セールスマシン” 毎日新聞

 埼玉県蓮田市の用水路で今年1月、ばらまかれた現金1800万円が見つかった。その後の展開は、意外なものだった。
 ◇押し入れにひたすら蓄えたカネ。同居の女にばらまかれ、悪質リフォームが露見した
 1800万円は、盗まれた金の一部で、盗難の被害総額は6000万円。被害届を出していたのは26歳の会社員だ。なぜ、こんな大金を持っていたのか。被害者の周辺も、捜査の対象となった。
 半年近くにわたる埼玉県警の捜査で、6000万円は悪質な訪問リフォームで稼いだカネと分かり、窃盗事件の被害者、中江匡志被告(26)が特定商取引法違反(不実告知)容疑で逮捕、起訴された。さいたま市にある訪問リフォーム会社「アクアジャパングループ」の名うての営業マンだった。
   ■   ■
 元同僚が「客が断る理由を一つずつ崩していく」と評する彼の営業は、お年寄りたちを根負けさせた。同県内で独り暮らしの82歳の女性もその一人だ。女性は以前、ア社に耐震補強工事を依頼した。「無料点検」と言って、2年後に訪ねてきたのが中江被告だった。
 「湿気で家が持たない」。不安をあおり、数日後には床下換気扇数台を持ち込んだ。購入を渋られても、粘りに粘った。
 「1台だけでも」「支払いは月賦でも」……。
 最後は手を合わせて懇願され、床下換気扇4台の購入を決める。その後に示された請求額は220万円。1級建築士によると、適正価格の10倍だ。「葬式代を残したい」と訴えると、中江被告は態度を一変させ、「いくらでも安い葬儀屋はありますよ」と言い放った。
 「『お母さん』と呼んでくれたりやさしかったのに、契約を終えた途端に薄情になった」。助産師をして、1人で暮らす老後のためにこつこつためたお金だった。中江被告はこうして多い月は800万円を稼いだ。
 中江被告は琵琶湖のほとりの町で育った。自営業の家で、3人兄弟の長男。高卒後、音楽専門学校に進み、熱心に通うが1年で中退する。「2年目の授業料は親ではなく自己負担することになっていたが、工面できない」。それが理由だった。
 十数種のアルバイトを経て、高収入の広告が目にとまり、リフォーム業界に入る。東京都から行政処分を受けた「モイスコジャパン」(福岡市)に就職。01年夏、埼玉でア社設立に加わる。
 「まるで機械」と元同僚は述懐する。ひたすら高い報酬を求めた。「無分別に業界に染まった」というのが捜査員の印象だ。「この世界だから上にいられる」と、仲間には打ち明けた。
 一方、高級外車に乗るなど派手な生活が当たり前の業界で、金銭感覚は独特だった。昨年春までは友人と同居して家賃を浮かし、後輩との食事は1円単位で割り勘にした。車は、父から譲り受けた中古トラックだ。
 「トップでいたかった」「この仕事は先が見えず、ためられるだけ金をためたかった」。県警の調べに、そう答えた。
 たまった大金に、同居していた25歳の女が目をつけた。女が別のリフォーム会社の社員時代に知り合い、昨年春から一緒に暮らしていた。
 今年1月27日夜、女は知人の男2人と共謀しアパートに侵入した。押し入れにあった現金6000万8000円を盗み出す。数日前に中江被告が額を数えたばかりだった。金はワゴン車内で山分けし、女は1800万円を自分の車に積んだ。
 しかし、男たちと別れた途端、女は「怖くなった」らしい。「人をだました汚いお金。憎しみがこもっている」と思ったという。真っ暗な砂利道で車を止め、夢中で用水路に金をばらまいた。
 女は窃盗罪で懲役3年の判決を受け、服役している。法廷で、中江被告が昨年末に女の愛犬をけり殺したことに触れ、女は言った。「私ばかりが多くを失った。金さえあれば何でもできるという(中江被告の)性格を変えたかった。金がなくなれば、私のことをもっと考えてくれると思った」
 逮捕後、中江被告は女に「おれも悪かった」と手紙に書いた。リフォーム営業について「良心は痛んだ」と供述した。札束をながめて暮らした生活を、今、彼はどう思うのか。拾得物として岩槻署に保管されていた1800万円は今月、中江被告に返還された。初公判は29日に開かれる。【村上尊一】
(毎日新聞) - 8月27日19時56分更新

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