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厚生労働省は、有料老人ホームが倒産して入居者が退去を余儀なくされた場合、500万円を上限に入居一時金の返還を事業者に義務づける方針を決めた。
返還ルールが明確でないために、退去時に一時金が戻らないトラブルをなくすのが狙い。来年4月以降に都道府県に開設の届け出をしたホームが対象で、一時金の保全により、返還を確実にし、利用者保護を図る。
厚労省 来年4月開設分から
有料老人ホームの多くは、家賃や生活支援サービスの前払い金として、利用者から一時金(平均1155万円、厚労省調べ)を受け取っている。だが、その返還を巡っては明確なルールがなく、ホームと利用者との間でトラブルが目立つ。
有料老人ホームのコンサルティングを行っている「タムラプランニング&オペレーティング」(本社・東京)によると、1か月入居しただけで一時金の半分が償却されてしまうケースや、入居と同時に一時金が一切、戻ってこないケースもある。また、多くの事業者は集めた一時金を保全せず、事業運営に充てているため、倒産時には、入居者は退去を迫られるばかりか、行き場も財産も失う深刻な事態が見られるという。
このため、厚労省は老人福祉法の改正で、一時金制度を持つ新設のホームを対象に、「倒産による退去時」に備えて500万円の返還義務を課すことにした。500万円は、「当座の生活資金として適当」(老健局)と判断した。ただし、入居一時金の額や入居期間により、本来、退去時に返さなければならない額が500万円を下回る場合は、その額を返す。
返還を実現するための一時金の保全の方法については、〈1〉供託所への供託〈2〉銀行の連帯保証〈3〉民間損害保険の活用——などのほか、「全国有料老人ホーム協会」(東京、244か所加盟)の基金の活用を検討中だ。同協会は1991年に「入居者基金」を設置し、一時金を取る加盟ホームに登録を義務づけている。事業者が入居者1人あたり20万円(80歳以上は13万円)を負担すれば、倒産でホームに住めなくなった場合、入居者1人あたり500万円が基金から支払われる仕組み。
国民生活センターの木間昭子調査室長は、「倒産にまで至る例は決して多くはないが、一時金をめぐるトラブルは多い。高齢者住宅の普及には、入居者保護の充実が急務。保全・返却の義務化で、最低限の安心が利用者に保障される」と話している。
有料老人ホーム 常時10人以上の高齢者を入居させ、食事などを提供する施設。介護が提供される場合は介護保険制度の対象となるため、制度施行後、急増。昨年7月1日現在で980か所、約5万2600人が入居している。法改正で人数要件が外れ、来年度以降は急増する見込み。
有料老人ホーム入居一時金返還、業界の積極対応が必要[解説]厚生労働省が規制を強化する背景には、独居高齢者の増加などで「自宅でも、施設でもない、第3の住まい」(厚労省)としての有料老人ホームの役割が高まる中、入居一時金の不透明さを少しでも解消したいとの思いがある。
ただし、民間同士の契約に、過度な公的規制をかけるわけにはいかない。そこで、返還義務がかかる対象は、「利用者が最も困った状態に陥る」(厚労省)倒産による退去時に限ることにした。
厚労省は今回、返還の義務化と併せ、一時金の算定根拠を入居者に明示することも事業者に義務づけた。家賃の額や生活支援サービスの人件費、想定居住年数などを知らせることで、利用者が有料ホームを選ぶ際の参考にしてもらう目的だ。
「団塊の世代」の高齢者の仲間入りが目前に迫るなか、有料老人ホームは、安心し、信頼できる「老後の住まいの選択肢」となるべきだ。一時金の返還ルールの適正化に向け、行政による法的な規制だけでなく、業界自身による積極的な対応が望まれる。(社会保障部 安田武晴)
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/kaigo_news/20050822ik16.htm