2005年08月06日(土) 03時05分
生保不当不払い問題 約款規定あいまい 契約者への周知課題(産経新聞)
明治安田生命保険の保険金不当不払い問題を受け、生保各社は社内調査に着手したが、不払いとなる基準のあいまいさに疑問の声が出ている。保険金殺人などモラルリスクを防ぐための“適切”な不払いは今後も必要とされる一方、契約者に知らせる努力が欠けていたことが指摘されており、今後はより透明で分かりやすい制度への改革が求められている。(納富優香)
金融庁は七月下旬、生命保険協会加盟の三十九社全社に、不払いを「詐欺無効」「告知義務違反」「重大事由解除」「免責事由該当」など七つに区分し、平成十二年からの五年分について、その件数と不適切と認められた場合には内容の報告を求めた。
大手四社の平成十六年度分の不払い件数の内訳は=表=の通りだ。免責などは公表していないが、合わせるとさらに数倍になる見通しだ。
五年分の全件について不適切か検証するわけだが、金融庁の示した判断基準は「法令、当時の募集の状況、約款などに照らし」とするにとどまっており、「結局は各社のマニュアルと照合するだけ。マニュアル自体と社会通念が合致するかを検証しなければ意味がない」(大手生保)と指摘されている。
特に問題となりそうなのが重過失の適用範囲だ。重過失とは、たとえば泥酔して車道で寝てしまったり、高速道路の逆走、麻薬吸引など「普通の人ならとてもやらないようなこと」(別の大手生保)が対象となっており、免責として不払いの理由になる。ただ、保険会社によって、その判断が分かれており、明治安田が七月に発表した新たな不当不払いでは、酒に酔っての転落事故にも適用するなど拡大解釈がみられた。
不払い理由の大半を占める「告知義務違反」についても、プライバシーの問題などからあいまいな面も残っている。
また、各社は約款で不払いの範囲を規定しているが、いずれも抽象的な表現にとどまっており、金融庁や生保協でのガイドライン策定を求める声も出ている。しかし、保険の自由化が進み、契約者のニーズが多様化する中で特約や給付事例は千差万別となっており、宇野郁夫協会長(日本生命会長)は「各社の約款は違い、統一は不可能」と否定的だ。
ただ、不払いの必要性に関しては保険業界は一致している。和歌山ヒ素カレー事件などでは、支払ったことが社会の強い非難を浴びており、「公平性を守るためにやむを得ない」(大手生保)というのが基本的な考え方だ。
生命保険は契約者が保険料を出し合い、一定の割合で起きる死亡や障害から生活を保障するのが目的で、リスクの高い人を排除するのは結局、契約者自身の利益になると主張する。
金融庁も「反社会的勢力などからの不当な請求に対しては揺るぎない対応をしてほしい」とクギを刺している。
保険業界の主張する不払いの“正当性”が受け入れられるかは、契約者への周知が課題となる。約款に載ってはいるものの、抽象的な言い回しで理解が難しいのが現状だ。具体的な事例を挙げて、事前に十分な説明を尽くす努力が求められている。
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≪損保各社も点検へ≫
損害保険業界でも、自動車保険の特約などの支払い不足が問題となっている。
一件あたり数万円から数十万円と、生保の不当不払い問題と比べると額は小さいが、業界全体では数万件にのぼるとの見方もあり、各社で自主調査を進めて、判明分の追加支払いを急ぐ。
二月以降、富士火災海上保険で約一万四千件、約六億二千万円の未払いがあったことが発覚。また、六月にはソニー損害保険が約六百件、約三千三百万円の未払いを発表した。
医療費など主要部分は支払ったものの、見舞金や代車などの費用分で漏れがあったもので、担当者のミスや保険金算出プログラムの不備などが原因だった。
未払いが相次いで判明したことから東京海上日動火災保険や損保ジャパン、三井住友海上火災保険など大手損保が一斉に社内調査を強化し、先月二十五日には日本損害保険協会が再保険会社を除く加盟二十社すべてに点検を要請した。
各社は過去三年分程度の自動車、火災保険など全支払いに関して調査する方針で、早ければ八月末に公表される見通しだ。
(産経新聞) - 8月6日3時5分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050806-00000013-san-bus_all