2005年07月23日(土) 03時07分
<悪質リフォーム>「詐欺着手罪」を検討 与党が被害者対策(毎日新聞)
与党は、高齢者らを狙う悪質訪問リフォーム被害対策で、業者がうそを言って勧誘に回ること自体を取り締まる「不特定多数詐欺着手罪」(仮称)を、刑法に新設することなどの検討を始めた。被害者がだまされたことを分からなくても、だまそうとする行為をくり返せば罪に問えるため、悪質な訪問勧誘のほか、「おれおれ」などの振り込め詐欺も、偽電話を続けただけで摘発対象とする。公明党内で論議されており、近く自民党と内容を協議。野党にも呼びかけて超党派の議員立法を目指す。【有田浩子】
訪問リフォーム被害が社会問題化する中、各政党・省庁が対策を検討しているが、具体的な法整備の動きは初めて。野党側も素人業者の参入をチェックする建設業法の改正などを検討している。
現在、悪質業者を取り締まる法律は主に、詐欺罪と特定商取引法(特商法)の二つ。しかし詐欺罪は被害後の対応で、しかも「だまされた」ことを立証しなければならないなど要件が厳しい。一方、特商法は正しい商品説明をしなかったことなどで立件できるが、罰則が「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」で、詐欺罪(10年以下の懲役)より軽く、罰金で済む例が少なくない。
これに対し、詐欺着手罪は被害予防的な見地に立ち、不特定多数の人に繰り返される詐欺的行為については、財産の侵害が起きる前でも摘発対象ととらえた。想定しているのは、会社ぐるみの悪質訪問販売や振り込め詐欺集団、ヤミ金融の利用勧誘など。刑罰については今後詰めるが、詐欺罪でも未遂の場合は執行猶予が付く例が少なくないため、相応に重くする方向で検討する。
公明党は月内にも対策素案をまとめて自民党と調整し、政府に提言。詐欺着手罪の法案は次期国会への提出を目指す。民主党もプロジェクトチームを設置しており、各党とも建設業法や特商法の改正などを論議している。
◇公共危険罪と位置付け=解説
与党が新設に向けて動き出した「不特定多数詐欺着手罪」の特徴の一つは、リフォーム詐欺を事実上、放火や列車の往来妨害など、不特定多数の人の生命・身体・財産の安全をおびやかす犯罪である「公共危険罪」と位置づけたことだ。
同様の例としては、暴力団抗争などを契機に58年に制定された凶器準備集合罪がある。実際に他人に危害を加えなくても、その目的で凶器を持って集合した者を罰する規定で、リフォーム詐欺でいえば、悪質業者がだまそうとした時点で摘発することができる。リフォーム詐欺が「市民生活を脅かす重大な犯罪」という認識が根底にある。
もう一つの特徴は、一般に立件のハードルが高いとされる詐欺罪を適用せずに、悪質業者を取り締まれることだ。
詐欺罪は(1)だます(欺罔(ぎもう))行為によって(2)被害者が誤った判断(錯誤)に陥り(3)財産を処分する——が構成要件になるが、リフォーム詐欺の場合、被害者には認知症(痴呆)の人や高齢者が多く、(2)の立証が特に困難だ。この点を克服できるうえ、適用範囲が振り込め詐欺やヤミ金融の勧誘も含むため「悪質商法を一網打尽にできる」(与党関係者)という期待はある。
一方で、現行法では未遂罪にとどまる犯罪に厳しい刑罰を科す方向にあるうえ、「着手」段階で詐欺行為ととらえる難しさなど、課題は多い。運用面も含め、慎重な論議も求められる。【有田浩子】
▽藤本哲也中央大法学部教授(犯罪学、刑法専攻)の話 刑法は客観的な実行行為がなければ罰せられないという考え方が主流だったが、最近は実行しなくても罪に問える「共謀罪」が審議されるなど、米国法的な新しい傾向がある。また、人身売買罪や児童虐待防止法など法の抜け道をふさぐための一連の特別立法の流れを考えれば、悪質リフォーム業者を取り締まるため法を新設することは可能と思う。だが、立法にあたっては十分な審議が必要だ。
▽土本武司・白鴎大法科大学院教授(刑法)の話 仮に「着手罪」を新設しても、執行猶予を付きにくくするために法定刑を引き上げるのは、詐欺罪既遂と未遂とのバランス上、相当難しいのではないか。凶器準備集合罪は人命に危険がある犯罪を実行前に規制しようと設けられた特殊なものだ。詐欺についても同様に着手罪を新設するかは、被害の重大性から考えると少し疑問で、特商法など現行法で対応していくべきだ。
(毎日新聞) - 7月23日3時7分更新
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