悪のニュース記事

悪のニュース記事では、消費者問題、宗教問題、ネット事件に関する記事を収集しています。関連するニュースを見つけた方は、登録してください。

また、記事に対するコメントや追加情報を投稿することが出来ます。

記事登録
2005年07月19日(火) 00時00分

『先物』トラブル グローバリー騒動を追う 東京新聞

 商品先物取引大手「グローバリー」(本社・名古屋市)が、商品取引所法に違反した疑いで、愛知県警に本社や支社などを家宅捜索された。同法違反の行為をしたとして、経済産業省や農林水産省から九十三営業日の業務停止という異例の重い行政処分を受けている最中だけに衝撃は大きい。同社は顧客とのトラブルの多さではもともと業界トップクラス。アテネ五輪の女子マラソン金メダリスト、野口みずき選手が所属することでも知られるが、金メダルのイメージとは縁遠い騒動を追った。

(名古屋本社生活部・白井康彦)

■重い行政処分中さらに家宅捜索

 グローバリーの強引な営業で大損させられた、と訴える人たちは多い。千葉県に住む会社員男性Aさん(33)もその一人だ。

 Aさんによると、二〇〇二年十二月に同社との取引を開始。灯油やガソリンの先物売買を繰り返し、〇四年七月に取引を終了したが、約二百六十万円の損害を被ったという。現在、損害賠償の義務があるかなどをめぐり同社と係争中だ。

 Aさんは営業マンの「仕切り拒否」「仕切り回避」が絶対に許せないと訴える。これは「取引を終わらせたい」という顧客の意思を営業マンが聞かず、取引を続けさせること。「損を取り戻しましょう」「もう少し様子を見ましょう」などと言って、取引終了を拒絶したのだという。

 Aさんは裁判所に提出した陳述書で、〇三年二月から約一年半の間にこうした行為が十四回あったと主張している。Aさんは、取引途中から営業マンとの電話による会話を録音。昨年秋、録音内容を商品先物会社を担当する経産省の検査官に提出した。

 録音の一部を紹介しよう。取引を終わらせなかった営業マンをAさんがなじっている場面だ。こんなやりとりの繰り返しで、業を煮やしたAさんは「今に見ていろ。強烈に反撃してやる」と決意を固めたという。

■電話のたびに怒る営業マン

 Aさん おれはあわてて「もうやめさせてくれ、やめさせてくれ」って、毎日昼休み、毎日というか、二日にいっぺんとか三日にいっぺんとか入れてたんですよ、電話。そのたびに〇〇さん(営業マンのこと)怒るんですよ。

 営業マン ええ、ええ、ええ。それは一番最初の時点で言った通りですよ。当然ね、「じゃあ私を信用できないの」っていう話になるわけでしょ。私は私なりに、そうだと思ってですよ。それ(取引を継続した方がいいという相場観)を話すのは当たり前じゃないですか。違います?

   ◇   ◇

 同社の行政処分は二回にわたっている。受託業務の停止は一回目が五月十日から六月二十三日までの三十三営業日で、二回目がそれに引き続く九月十六日までの六十営業日だ。

 一回目の処分では、同社が顧客とのトラブルを監督官庁に報告しなかったことや、関係者の名前を使った口座を設けて自己売買し、利益を顧客とのトラブル解決のための資金に充当したことなどが、商品取引所法違反に当たるとされた。

 愛知県警も、同社から両省への虚偽報告について同法違反の疑いがあるとして家宅捜索に踏み切った。

 二回目の処分では、二点が同法違反とされた。一つは、顧客の資産の返還を拒否したり、不当に遅延させたこと。数百件以上も違反行為があった。もう一つが、取引を終わらせたいとの意思を示した顧客に引き続き取引を行うよう勧めたことで、違反行為は年間十数件。「仕切り回避」「仕切り拒否」の“グローバリー商法”が真っ向から断罪された形だ。

 同社の顧客は二、三十歳代の男性が中心だ。先物取引で大損した個人の救済に当たっている弁護士らは「営業マンが無理やり取引を続けさせることが多いので、顧客が消費者金融会社などから借金を重ねることも目立つ」という。

 二〇〇〇年には、同社の顧客の男が営業マンを殺害した「大分事件」が発生。この事件でも大損した男は消費者金融会社に借金していた。男が損害賠償を求めて起こした民事訴訟では、同社の営業の問題性が認められて男が勝訴している。

 今月一日に同社が発表した業績予想修正やリストラ策は、行政処分によるダメージの大きさを示した。

 〇五年三月期は、売上高に当たる営業収益が百二十四億円、最終利益が十五億円だったが、〇六年三月期の予想は営業収益が二十七億円と五分の一近くにまで激減。最終損益は二十五億円の赤字に転落する。

 最終赤字は一九九七年に名証二部に上場以降では初めて。〇四年三月期までは十期連続で増収増益を続けていたのだから、業績の悪化ぶりは際だつ。

 経営責任を示すため、今月一日の取締役会で、代表取締役会長だった加治屋尚氏の取締役相談役への退任や、その他の役員三人の降格処分を決議した。今月からは役員報酬(取締役、監査役合計十六人の総額)も半分に減らす。

■幹部「法令順守研修ばかり…」

 経営スリム化も急ピッチ。全国に十五あった営業店は今月末には六に減る。従業員は三月末には六百五十人いたが、八月初めには三百五十人程度まで減る見通しだ。「営業マンは今は、コンプライアンス(法令順守)の研修ばかり」と同社幹部は自嘲(じちょう)気味に話す。

 しかし、行政処分を同社がすんなり受け入れたわけではない。

 処分のきっかけは、昨年十一月中旬から今年三月中旬まで行われた経産省と農水省の同社への検査。検査の実態は通常はベールに包まれているが、同社への検査については四月十八日の参院決算委員会で自民党議員が質問し、両省が大掛かりな陣容で厳しい姿勢で実施したことが浮かび上がった。

 議員は同社従業員のリポートが約四十通手元にあると明かし、その内容を「初日は(検査担当者ら)三十人ほどが押し掛けに近い状態で入ってきた」「デスクの中身をすべて出すように指示された。『従わなけりゃ罰則だ』と高圧的に言われた」「検査官に顧客との取引の最中のテープを聞かされ、半ば強引に法令違反を認める念書を書かされた」などと説明した。

 議員は、検査のやり方が行き過ぎだと繰り返し強調。「社員の生活を十分勘案した上で業務停止命令を出しているのか」と述べた。また、投資家保護のルールを強化した改正商品取引所法が今年五月に施行されたことに触れて「スケープゴートをつくりたいという意味が(検査に)読み取れる」と指摘した。

 このスケープゴート論は、業界関係者らも必ずしも否定しない。しかし、一方で、「トラブルの多いグローバリーのせいで業界全体のイメージが下がっていた。だから、厳しい処分は当然」と話す関係者も多い。

 監督官庁側は国会質問の後に断固として厳しい処分を下し、愛知県警に告発するという“荒技”も使った。経産省の担当者は二回目の行政処分を出した後、「議員からの働きかけはあの後は特段ない」と余裕の表情を見せた。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050719/mng_____tokuho__000.shtml