2005年06月22日(水) 16時26分
成年後見制度:「選挙権喪失」、8割知らず 制度改革の声上がる−−適用で /千葉(毎日新聞)
◇基本的人権はく奪の矛盾
知的障害者らを権利侵害から守る成年後見制度について、県内で知的障害のある子を持つ親の団体が会員にアンケートしたところ、約8割が、最も判断力が減退している場合に適用される後見人を付けた時点で、選挙権がなくなることを知らなかった。権利擁護の制度でありながら、基本的人権の一つが奪われる矛盾に「制度を変えてほしい」との声が上がっている。【中川紗矢子】
調査は「千葉県手をつなぐ育成会」(田上昌宏会長)が04年3月に実施。会員のうち、成人の子供がいる2368人に調査票を送付し、666通の回答があった。
調査の結果、後見人を付けると自動的に選挙権がなくなることを77%の人が「知らなかった」と回答。選挙権に関する制度について、ほとんど把握されていないことが浮き彫りになった。選挙権がなくなることに対しては、全体の計28・2%が「残念」「人権侵害で差別だと思う」と答え、「仕方がない」「当然」の計24・2%を上回った。
また、知的障害者本人が投票に「必ず行く」のは19・2%。「時々行く」は16・2%で、計35・4%が投票していることも明らかになった。
総務省は「選挙権喪失は判断能力の特に低い利用者が対象で、後見人による権利乱用を防止するため」と説明している。しかし、同会には後見人申請後に選挙権喪失を知り、申請を辞退した会員もいるという。
重度の知的障害を持つ三男(31)がいる市川市の主婦、飯高知子さん(59)は「基本的人権は命ある限り当然あるべきものなのに、障害者だからと言って取り上げられるのは納得できない」と話している。
◇選挙権残す方向へ見直しが望ましい−−日本成年後見法学会常任理事の高橋弘・司法書士
アンケートからは親の気持ちが十二分に伝わり、投票が(障害者らの)生きがい、楽しみになっていることがよく分かる。適用される制度の種類は、金銭的な契約能力の有無で分類されており、投票能力とは別のものが根拠になっている。本人の能力をできるだけ生かすという制度の趣旨に沿うためにも、類型を細かく分けて、それぞれのケースで選挙権を残す方向で見直されるのが望ましい。
………………………………………………………………………………………………………
■ことば
◇成年後見制度
知的障害や認知症で判断能力が不十分な人の財産管理や生活上の契約を後見人が代理し、悪徳商法の被害などから守る制度。00年度に創設され、5年間で約4万人が利用している。本人が契約する「任意後見」と、家族や市町村長が後見人を決定する「法定後見」がある。法定後見は、状態別に「補助」「保佐」「後見」の3種類があり、「判断能力が欠けているのが通常の状態」の「後見」を適用されると、選挙権を失う。埼玉県富士見市に住む認知症の老姉妹がリフォーム業者らに約5000万円分の工事を繰り返され全財産を失った問題でも、発覚後、市が後見人選任を裁判所に申請した。
6月22日朝刊
(毎日新聞) - 6月22日16時26分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050622-00000127-mailo-l12