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「日本のことを知りたいから、SMSをしよう−」。ケニアの海岸にある小さな町、ワタムのホテルで従業員と雑談をしていると、彼は突然こんなことを言いだした。SMSとは「ショート・メッセージ・サービス」の略で、ケータイ同士で短い文字メッセージを送受信できるサービス。つまり、日本の携帯メールのようなものだ。私はそのとき国際携帯電話を持っていなかったので、残念ながら電話番号の交換はできなかったが、まさかケニアで携帯番号の交換を提案されるとは思ってもいなかった。
「ケニア」と聞いて日本人が連想するのは、サファリとかマサイ族とかいったイメージだろう。実際、首都ナイロビなどの都市は別にして、地方ではまだまだ水も電気も通っていない村が多い。土壁の家に住み、火をおこして料理するといった生活が、まだ根強く残っている。しかし、ケータイはそんな暮らしの中でも、驚くほどのスピードで浸透していた。「十年前にケニアにケータイが登場したときは、本当に高価だった。一部の特権階級やビジネスマンしか持てない、ぜいたく品だった」と、ナイロビに住む日本人女性。それが「五、六年前から値段が下がり、三年ほど前から爆発的に普及した」という。カメラ付きや着メロのサービスだってある。
ナイロビ市内にあるケニア最大のスラム「キベラ」でも、ケータイを使う人がいる。キベラでは多くの住宅に電気が通っていない。そこで、自宅でケータイの充電ができない人は、近くの“充電業者”に小銭を払って充電する。
ケータイにかかわるビジネスが、ほかにもたくさんある。ケータイはほとんどプリペイド式で、このプリペイドカードを売っている売店が町のいたるところにある。ケータイのレンタルサービスもある。ケータイの普及は、それに関連するさまざまなビジネスをつくりだし、市民生活に大きな影響を与えているのだ。
もちろんケニアでもケータイは決して安くない。購入するための初期費用は、平均月給に相当。その上、通話料も一分間で三十五ケニアシリング(約五十円)、SMSでも一通五−十シリング(約八−十五円)もする。定期収入を得ている人の平均月給がだいたい六千シリング(約九千円)だから、いかに高価か分かる。現金収入がゼロもしくは一日数十シリング程度の人が多く存在することを考えれば、ケニアでケータイを持つことは大きな負担だ。
そこまで大変な思いをして、なぜケータイを持つのか。キベラに住む大学生のサブロンさんは「ケータイは、家に固定電話を引くよりずっと安い。それに、今まで電話で連絡を取ることが難しかった遠方の人とも簡単に連絡が取れる。使用可能な地域もどんどん拡大、もうじきケニア全土でケータイが使えるようになる。ケータイは固定電話よりも安くて便利」と言う。
伝統を重んじる生活を続けているマサイ族の中にもケータイを持つ人がいる。そんな現状を、ナイロビ大学の学生のベンソンさんは「ケータイが普及するにつれ簡単にうそをつく人が増えた。用事を断る時、昔は会って断らなくてはいけなかったけれど、今はメールや電話で簡単に済ませられるからね」と分析する。
ケニアと日本。文化や環境が全く違う両国だが、ケータイが人と人との触れあいに与える影響は、どこか似ていると思った。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/dgi/20050606/ftu_____dgi_____000.shtml