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金沢、名古屋訴訟の両地裁が示した判断は、プライバシー侵害の危険性など重要な論点で真っ向から対立。住基ネットをめぐる司法の“揺れ”が浮かび上がった。
金沢地裁判決は「住民票コードを使った名寄せで住民が行政機関の前で丸裸にされる。プライバシー侵害は相当に深刻だ」と危険性を厳しく指摘した。
これに対し、名古屋地裁判決は「住基ネットが目的外に使用されたり、プライバシー侵害を容易に引き起こす危険なシステムとは認められない」と逆に判断、根本的な認識の違いが際立った。
また、プライバシーと利便性の関係をめぐっても、判断は割れた。
金沢判決は「どちらを優先させるかは個人の意思で決定すべきだ」とし、離脱を求めている原告らまで強制的に参加させるのは「憲法違反になる」と、限定的ながら違憲判断まで踏み込んだ。
一方、名古屋判決は「事務効率の向上などに資する」と住基ネットの高い必要性を認める一方、本人確認情報(氏名、住所など)の秘匿性は低いと指摘。「ネットの必要性を考えれば、情報のみだりな収集・開示が行われているとはいえない」と違法性を否定した。
金沢判決が「プライバシー権に含まれる」とした自己情報コントロール権に関しては名古屋判決は判断を避けている。
名古屋弁護団の花田啓一団長は「判決は被告側の主張をそのまま受け入れただけ。金沢に比べ浅薄だ」と批判。森下文雄弁護士は「名古屋判決はネットの技術的な問題にも触れていない。そもそも裁判官は、巨大なコンピューターネットワークや、その危うさへの十分な理解を欠いたまま被告側の主張に依拠したのではないか」と不信感をあらわにした。
金沢訴訟の原告の一人、成房〓夫さん(73)=石川県加賀市=は、名古屋地裁の判決について「われわれが勝訴していい流れができただけに、憤りを覚える」と話した。 (名古屋社会部・今村実)
■相次ぐ住民訴訟 ぬぐえぬ不信感
住民にとって利便性の向上か、個人情報の危機か−。住基ネットは、そうした功罪をめぐる議論がかみ合わぬまま、二〇〇二年八月に稼働した。「全員参加」という選択肢しか示されない住基ネットの制度そのものへの不信感が、住民訴訟の背景にはある。訴訟は判決の出た金沢、名古屋を含めて十三地裁で約四百五十人が起こした。
住基ネットは各市区町村の住民基本台帳をネットワーク化し、住民の四情報(氏名・生年月日・性別・住所)と十一ケタの住民票コード、これらの変更情報をやりとりして、全国共通の本人確認ができる仕組み。
訴訟などを通じて住民側が主張するのは、ネットがはらむ情報漏えいの危うさだけでなく、住基ネットを基盤にして「自らの個人情報がどう使われているのか分からない」という不透明感だ。金沢判決では、こうした本人確認情報の「自己情報コントロール権」や、名寄せの危険性を認めている。
国側は住基ネットについて、公的な身分証明になるICカードの発行や住民票の広域交付など利便性の向上、行政事務の効率化といったメリットを強調してきた。だが、浸透度を測る尺度の一つであるカード交付枚数は全国で約五十四万枚、住基人口に占める割合は0・43%(三月末現在)にとどまっている。
しかも、「公開情報」とされてきた住民の四情報についても、住基台帳の閲覧制度の見直しを求める機運が高まっている。
進化する情報管理の在り方とプライバシーの両立という命題への対応が今、問われている。 (社会部・石川修巳)
(〓は甬の下に心)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20050601/mng_____kakushin000.shtml