2005年05月26日(木) 02時40分
マスコミ各社 JR脱線「個人情報保護法」で混乱 「プライバシー」重い課題(産経新聞)
兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故で、病院やJR、警察などには乗客の家族らからの安否確認の問い合わせが殺到し、対応に追われた。民間を対象にした「個人情報保護法」が今年四月に施行されたこともあり、関係機関は情報の提供には慎重な姿勢をみせた。しかし、人命保護などの場合を例外とする法の趣旨が徹底されておらず、医療機関などでは発表内容に混乱も見られた。
JR福知山線脱線事故では、被害者名などの情報提供を拒否する理由として、四月施行の「個人情報保護法」が持ち出されたケースが指摘された。産経新聞社は同法の取材現場への影響や対応について、全国紙四紙、NHK、在阪民放テレビ五局にアンケートを実施。その結果、同法の誤った解釈などが、取材現場に影響を及ぼしていた実態とともに、迅速で正確に事実を伝える報道の原則に、被害者への配慮をどう反映させるかという課題も浮き彫りにした。
個人情報保護法については、各社とも「報道目的では適用除外」であるとした上で、今回の事故報道に当たってはプライバシー保護に配慮したスタンスを示す。
日本経済新聞は「報道の役割が同法で妨げられてはならない。ただ趣旨を尊重し、被害者感情やプライバシー保護に配慮して記事化している」▽毎日新聞は「報道目的の取材活動は除外されることから、公的機関には情報提供を積極的に要望した」▽朝日新聞は「肉親や知人らが事故に巻き込まれていないかどうかは重大な関心事。けがをされた方にも、安否や収容先を家族や勤務先に知らせたいとの思いがあったはずです」−とした。
NHKは「報道の自由を堅持する立場から、個人情報の重要性を認識し、自主的、自立的に適切に扱っている」▽関西テレビは「報道目的の適正な手段で情報を入手するよう努めている」−と回答した。
一方、今回の事故取材では、読売新聞とテレビ大阪を除く各社が同法をめぐり取材に支障があった、と答えた。
「複数の病院が同法を理由に情報公開を拒否した」(毎日放送)というように、ほとんどの報道機関が指摘したのは病院の対応だった。
毎日新聞は「『同法を理由にすれば何も出さなくてもいい』などの誤解が広がっている。市民らが同法と報道の関係について認識を深めるよう努力したい」とした。
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≪真相究明の道閉ざす≫
服部孝章・立教大教授(メディア法) 当局による報道機関などへの発表と、報道機関による報道は分けて考えるべきだ。個人情報保護法や「人権やプライバシーの尊重」を理由に匿名発表が増加している実態は、被害者および関係者の人権を配慮してのことであろう。しかし、同法をたてに報道機関への情報提供を拒否するのは問題だ。遺族の要望によるところがあるとしても、社会の知る権利を損なうものである。報道機関は、事件事故を多角的に取材して背景や原因を究明し、社会に伝えることが期待されている。警察などの公的機関も事件事故の事実究明が役割としてあるが、報道機関は公的機関の広報を担当しているわけではない。匿名発表は、報道機関の取材の足がかりを奪い、報道による事実の究明への道を閉ざすことにもつながる。
≪法に過剰反応の面も≫
碓井真史・新潟青陵大学教授(社会心理学) 情報は共有してこそ価値が発揮される。私たちは個人情報保護法に過剰反応している面はないだろうか。たとえば今回の脱線事故では、負傷者を収容している病院に家族らからの問い合わせ電話があったが、病院は電話での問い合わせには答えられないと、情報をださないケースもあった。そのために家族の死に目に会えなかった人がいたという。この病院の行為は、法律とかマニュアルにてらせば、正しいことだろう。しかし、電話先から聞こえる、すがりつくような必死の声を、ただ無視すればよかったのだろうか。情報の問題を、法律だけで規定することは難しいのかもしれない。また、個人情報保護法の、法の精神を尊び、その法律を柔軟に現実的に適用するための議論が、まだまだ不十分なのだろう。
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【個人情報保護法】氏名や生年月日など特定の個人を識別することができる個人情報の不正な取得や、本人の同意なしに第三者に提供することを禁じた法律。5000件を超える情報を持つ民間事業者が対象で、違反事業者には事業を所管する主務大臣が勧告、命令を行い、命令に従わない場合は罰則の対象となる。しかし、人命や身体などの保護のために必要な際や法令に基づく場合は、本人の同意を得ずに第三者への提供が可能な例外規定を設けている。また、新聞社、通信社など報道機関が報道目的の場合も適用されない。
(産経新聞) - 5月26日2時40分更新
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