悪のニュース記事

悪のニュース記事では、消費者問題、宗教問題、ネット事件に関する記事を収集しています。関連するニュースを見つけた方は、登録してください。

また、記事に対するコメントや追加情報を投稿することが出来ます。

記事登録
2005年05月25日(水) 00時00分

温泉法施行規則改正 白骨温泉ルポ 東京新聞

 “温泉”をうたいながら公共露天風呂に入浴剤を入れていたことが発覚した長野県・白骨温泉。二十四日に施行された環境省の改正温泉法施行規則に基づき成分表を掲げ信頼回復を図るが、田中康夫知事がPRする県独自の認定制度には実は応じていない状態だ。法の改正内容にも不備が指摘される中、全国の温泉の信頼は回復されるのか。 (藤原正樹、吉原康和)

 「問題が発覚した昨年七月、心の底から怒っている客の電話が何件もあった。当時の組合長や自分の旅館が入浴剤を使っていた村長は、辞めなければまわりが納得しなかった」

 白骨温泉旅館組合の斎藤康行組合長は、嵐のような批判にさらされた昨年をこう振り返る。

 問題の発端となった公共露天風呂は、先月二十八日から再開した。湯加減はぬるめで、湯はほぼ透明だ。「二年前に来たときは乳白色だったけど、今は透明。温泉なんだから天然のままでいいんじゃない」。兵庫県明石市から来た女性客(61)は、満足そうに話す。

 その一方で川崎市の男性客(48)は「白骨といえば乳白色なのに、なんか物足りない感じ」と不満顔で「色をつけたがった動機は理解できる…」。

 白骨温泉のほとんどの旅館の風呂は、自然のままでも乳白色だ。公共露天風呂など源泉が異なる例外的な一部の風呂が白骨のイメージに合わせようと“色”をつけたのが問題の背景だ。

 公共露天風呂は今月末まで無料とあって、平日にもかかわらず入浴客は途絶えない。斎藤氏は「それでも事件のダメージは大きく、客数は二年前の全盛期の半分程度」と漏らす。

 旅館を切り盛りする辞職した元村長の長男は「一部報道で誤解したのか、うちの乳白色の湯を見て『まだ入浴剤を使っているの』という人もいる。こっちが本当の色なのに」と深い後遺症にうんざり顔だ。

 改正温泉法施行規則は、新規則として「加水、加温、浴槽の循環・ろ過、入浴剤・消毒の有無と理由」について掲示することを求めている。これに対し斎藤氏は「基本中の基本の内容。組合では、もっと基準を上げている」と強調する。

 同組合では、事件直後から、従来あった源泉の状態表示に加え、浴槽の加水や加熱などを表示している。「内容が煩雑すぎず利用客にとって必要十分な情報提供」と元村長の長男も胸を張る。

 しかし、白骨温泉旅館組合は、田中知事が「消費者の視点に立った信州モデル」と打ち出した「『安心、安全、正直』な信州の温泉表示認定制度」の認定を受けていない。

 この制度は、浴槽内で源泉の占める割合の提示やレジオネラ菌対策など十三項目を認定基準とする。同県在住で作家の玉村豊男氏らが委員として基準づくりに携わった。

 斎藤氏は「殺菌処理項目がネックになり、県内のほとんどの業者が認定を申請していない。白骨の成分と塩素は相性が悪い。塩素を入れれば、成分が変わり沈殿してしまうという指摘もある」と説明する。

 別の温泉旅館経営者は「県の基準は理念が優先し現実に即していない。小さな浴槽で湯量が潤沢な温泉だけが基準をクリアできる。大浴槽で基準をクリアするには塩素を入れなければならないが、それでは塩素だらけのプールと変わらない」と抵抗感を示す。

 温泉客に聞いてみた。

 東京都練馬区の男性客(80)はこう首をかしげる。「なるべく厳しい基準を設けた方が、管理がよくなったというアピール力があるのに。白骨はなぜ受け入れないのかね」

 白骨温泉が、全国に広がった“温泉不信”の震源地だったため、鳴り物入りで設けられた長野県の認定制度や改正温泉法施行規則だが、これで本当に利用者の信頼回復はできるのか。

 同制度に基づく認定施設は二十四日現在、県全体で十カ所にとどまっている。

 長野県の担当者は「ゴールデンウイーク明けから、県内の温泉地を回って制度の説明会を開いてきたが、結果的に制度の趣旨が徹底していなかった。われわれの努力が不足していたのかなあ、という反省はある。これから申請が増えると期待している」と現状を説明し、白骨温泉についても「待っています」と期待を寄せる。

 “謙虚な”姿勢を見せる県当局だが、県内の温泉業界の受け止め方は複雑なようだ。同県温泉協会の中山茂樹会長(山ノ内町長)は「認定制度が進まないのは表示項目が多すぎるから。国が義務付けている表示基準をクリアすれば十分で、あえて県の認定を申請しなくてもいい、と考えている温泉旅館は多い」と明かし、暗に、業界が県側へ不満感を持っていることを代弁する。

 「非常に残念なこと。一連の騒動は白骨温泉から始まり、法整備のきっかけになっただけに、長野県が独自に認定することは消費者に向けて一定の重みがあるはず。知事のためではなく、国民のためにも『長野モデル』をつくってもらいたい」と指摘するのは札幌国際大学の松田忠徳教授(温泉学)だ。

 改正された温泉法施行規則そのものへの不備を指摘する声も少なくない。

 環境省の担当者は「情報提供を充実することによって、昨年の一連の温泉騒動で失墜した信頼の回復が図れれば」と改正意図を説明するが、温泉学会会長の保田芳昭・関西大学名誉教授は「国の表示基準では、温泉にどれだけ加水しているかの割合は書かなくてもいい。これでは、源泉に対する割合(源泉率)が消費者にはまったく分からない。極論すれば源泉率が1%でも通用してしまいかねない。環境省の基準は生ぬるい」と指摘する。

 さらに「消費者にとって重要なのは湯船に入った時のお湯の中身(成分)。成分分析にかかるコストも利用者が払っている入湯税で十分まかなえる」と提言する。

 前出の松田氏は「表示をするという意味では一歩前進」と評価しながらも「業界の状況を考えると遅過ぎた。一度失った信頼の回復は容易ではなく、温泉離れもすぐには元に戻らないだろう」と分析する。

 そのうえで「加水率が一割の旅館も九割の旅館も法的に明らかにならないのでは温泉経営者の真摯(しんし)な努力を無にする危険性がある」と批判する。

 しかし、環境省の担当者は「今後、新たな改正は考えていないし、抜本的な見直しをした上での新法の制定もありえない」との見通しを示す。

 こうした国や地方の取り組み姿勢をみながら松田氏はこう訴える。「温泉文化は一言で言えば消費者と温泉旅館業者との信頼関係。一連の問題で消費者の見方は非常にシビアになっている。法律うんぬんはともかく、徹底した情報開示をしない業者は消えていくしかないだろう」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050525/mng_____tokuho__000.shtml