2005年05月12日(木) 03時06分
<悪質リフォーム>業者一転「返金」へ 埼玉県の老姉妹に(毎日新聞)
埼玉県富士見市に住む80歳と78歳の認知症の姉妹が、訪問リフォーム業者らに約5000万円分の工事を繰り返され全財産を失った問題で、最多の約2500万円分の工事を受注した会社が、同市に返金を申し出ていることが分かった。市は判断能力のない姉妹に代わって財産を管理する「成年後見人」の選任を裁判所に申請中で、県警も関係書類を入手して事実関係の調査を始めた。申し出はこうした動きに備えるものとみられ、他にも債権放棄などの申し出があるという。【扇沢秀明】
市の調べでは、姉妹と契約を結んだ業者は当初判明分から2社増え、計16社になった。
競売にかけられた姉妹の家は、同市商工振興課が裁判所に中止を申し立て、競売手続きは止まった。同課はその後、業者や提携先の信販会社に代金返還や解約を申し入れている。成年後見人の選任を請求した高齢者福祉課は「契約無効などを主張し、財産を取り戻す裁判をするには後見人が必要」と、法的手続きを検討している。
一方、県警東入間署は市から任意提出された領収証など関係書類の分析や姉妹宅の調査に着手。同署は「成年後見人が決まり刑事告発があれば捜査の端緒になる。それ以前でも犯罪行為が明確になれば調べる」と言う。
業者側は、こうした事態に対応を変えた。約2500万円分の工事をしたリフォーム業者は、当初「(返金は)即答できない」としていたが、その後の取材に「非は認め重く受け止めている。お金は借金してでも返したい」と話した。市にもその旨を伝えたという。
また市によると、約610万円の工事をした業者も顧問弁護士が返金の話し合いを申し入れ、競売を申し立てている信販会社2社のうち1社は、37万円の債権の全額放棄を申し出たという。
しかし、領収証を整理している竹村幸子・消費生活相談員は「チラシの裏に領収証を書いた業者は行方不明になるなど、被害の全額を確定するのは困難で、どれだけ回収できるか分からない」と話している。
成年後見人の選定は、裁判所の鑑定人が姉妹の生活状況などを調べ、市が依頼した医師が診断したうえで決まるため、通常2、3カ月かかる。返金は市で受け取れないため、判断は選定された後見人に委ねられる。
姉妹は今も事態を理解できていないが、報道後は、年金目当てに自宅に集金に来ていた業者も現れなくなり、2人の生活を続けているという。
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姉妹の自宅は築30年の木造2階建て、延べ約50平方メートル。この小さな家になぜ16社もの業者が群がったのか。市の依頼で家を調べたバリアフリー住宅研究のNPO「ピュアライフ・ネットワーク」の石田隆彦理事長は「業者間で顧客名簿が転売されているのではないか」と指摘する。
また、姉妹に親類や近所付き合いがほとんどなく、介護保険など公的サービスも利用していなかったことも大きい。知人によると、元国家公務員と証券会社員だった2人は他人を頼まない思いが強く、周囲が認知症を把握できなかったという。
富士見市高齢者福祉課の庄野拓男課長は「民生委員やケースワーカーの訪問を拒まれたり、援助を求める能力そのものがないと、情報網に掛からない。高齢化や都市化の進展に対処するには、もっと情報網を密にしなくては」と苦慮する。
◇ことば「成年後見人」…高齢や知的、精神障害などで判断能力が衰えた人を支援するための民法上の制度で、00年4月に導入された。配偶者や4親等内の親族が申請でき、親族がいなければ居住地の首長が申し立てられる。後見人には親族らのほか弁護士や社会福祉法人などもなることができ、後見人の同意なしで不必要なものを買わされた場合、契約を取り消せる取消権を持つ。
(毎日新聞) - 5月12日3時6分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050512-00000011-mai-soci