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2005年05月10日(火) 00時00分

悪質リフォームはびこる理由 東京新聞

 埼玉県富士見市に住む高齢の姉妹が、約五千万円もの自宅のリフォーム工事を繰り返され、自宅が競売にかけられていた。認知症(痴呆症)の姉妹に、十六もの業者が群がった格好で、専門家は大半が不必要な工事か、架空の請求だったと指摘する。訪問販売リフォームの苦情相談は年々増加の一途だが、行政処分などの件数は数えるほど。悪質業者が絶えない理由は−。 (松井 学、早川由紀美)

 姉妹は築三十年の木造二階建ての自宅で仲良く暮らしてきた。ともに未婚で、東京・霞が関勤めの公務員と証券会社社員だった。

 九日、地元の警察署員らが状況把握のため姉妹宅を訪れたが、八十歳の姉は「なんでかね、たくさんの人が来るよ」と話し、七十八歳の妹は部屋の隅で洗濯物を見つめている。事態がのみ込めない様子だ。

 二人が複数の業者に勧められるまま、約五十平方メートルの自宅に三年間で繰り返していたリフォーム工事は四千七百万円以上。少なくとも四千万円はあった全貯蓄はなくなり、自宅が競売にかけられたため、近所の人が異変に気づいた。姉妹は「知らない女の人が来て家は私のものになると言われた」とおびえた。契約書に名義があったのは少なくとも十六社。競売は市が裁判所に申し立てて中止になったが、内容がわからないまま契約した可能性が高い。

 市から頼まれ、姉妹宅を調査した住宅バリアフリーに取り組むNPO(民間非営利団体)「ピュアライフ・ネットワーク」理事長で一級建築士の石田隆彦氏は「工事金額で同様の新築が二軒は建つ。でも実際の工事は契約価格の十分の一以下でしょう」と指摘する。

■家屋の周囲にも調湿剤がまかれ

 天井裏には、多数の耐震補強金具が目立つ。契約書では一本最高十八万円とされたが、仕入れ値は五千円しない。電源コードをつないでいない換気扇も六個ほどぶら下がる。床下には、通常三センチで足りる調湿剤が十八センチほど敷きつめられ、余った調湿剤は家屋の周囲にもまいてあった。

 契約書等で確認できた工事は二〇〇二年からで、最も多い業者は二千五百万円。別の業者は調湿剤などの工事でわずか十一日間に相次いで五件、六百七十三万円分の不自然な契約を結んでいた。被害額は五千万円を超える可能性もある。最近まで、年金支給日には業者が姉妹宅を訪れていた。

 石田氏は「リフォーム業者の営業マンが、顧客情報を握ったまま他社へ移り、同じ家を狙う。今回も二千五百万円の契約を取った会社の営業マンが別の会社へ移って、再び姉妹宅を狙っていた」と指摘する。

 今回の事情に詳しいベテランの消費生活相談員は「昔だったら行政がなぜ救えなかったかが問われるケースだが、いまや行政は本人が申請しなければ動かない『利用サービス』になっている。しかも現場に合わせた対応が必要で、市に任せてもいいはずなのに、市には行政処分の権限がない」と訴える。

 姉妹宅に約二千五百万円ものリフォーム工事を行ったという、都内の業者が取材に応じた。社長は「自分でも確かに高かったと思うが、認知症とは知らなかった。返却すべき金額は返金したい」と話し、非常識なリフォームがなぜ繰り返されたのかについては、「契約書などのチェックをきちんとしなかった私の管理能力のなさが原因」と繰り返した。

 国民生活センターによると、訪問販売によるリフォームの相談件数は〇三年には九千五百件余と、この八年で三倍に増えている。
 
 都内の建築事務所関係者は「リフォームをテーマにしたテレビ番組が人気を呼ぶなど、リフォームがはやっている。五百万円未満の工事ならば(国や都道府県の許可で得られる)建設番号がなくてもできるので、素人同然の業者がどんどん入ってきている」と打ち明ける。「うちが相談を受けた事例では、昨日まで塗装業者だったようなところがリフォームを請け負い、最初は五百万円未満の見積もりを出しておいて、後で一千何百万円の請求をしてきた。法整備に問題がある」
 
 建設業法では、建設業を営むためには国や都道府県の許可が必要だが、「政令で定める軽微な建設工事のみを請け負うことを営業とするものは、この限りではない」とある。これが五百万円という線引きだ。
 
 国民生活センターも〇二年の特別調査報告書で、苦情のあったリフォーム工事の平均契約額が二百万円余で、六十歳以上の高齢者に被害が多いことを指摘したうえで、「建築技術の未成熟な訪問販売業者が安易に参入している現況が見受けられるので、『軽微な建設工事』の基準の見直しが必要と考える」と国土交通省に要望している。しかし、同省建設業課は「(リフォームにまつわるトラブルは)民民の話で、手の出しようがない」とし、政令などの見直しについても検討はされていないと言う。
 
 報告書では、経済産業省にも要望として、訪問販売など特定商取引に関する法律等の関係法令を順守しない業者の指導・取り締まりを求めている。
 
 だが、相談件数の急増に対し、特定商取引法で行政処分を受けた業者は、経産省の改善命令の「指示」の件数ですら多い年でもわずか十二件=グラフ参照。最長一年間という業務停止命令は昨年度こそ十件と“突出”したが、ほとんどがゼロだ。都道府県では業務停止命令は一件もなく、三十三府県が「指示」すら一回も出していない。
 
 前出の消費生活相談員は「特定商取引法の申し出制度は被害者本人でなくてもよいはずなのに、本人申請でないと県はなかなか動かない。今回の問題にとどまらず、自己責任社会の大きなひずみが出ている。認知症の人の場合でも自己責任で済ませるのか」と話す。
 石田氏も「本当に悪い業者は法律を熟知し、『おまえらは何も強制力はないだろう』と行政やNPO、建築士らをなめてかかり、業者名の公表や営業停止はないと踏んでくる」と怒りを隠さない。
 
 被害は把握されていたにもかかわらず、対策については手つかずのまま放置され、今回の事態に至ってしまったともいえそうだ。
 
 消費者問題に取り組む民間組織・悪徳商法被害者対策委員会の堺次夫会長は「悪徳商法の事件の数が多すぎる。警察は振り込め詐欺に力を入れ、各地の消費者センターは架空請求の対応に追われる。百花繚乱(りょうらん)、あだ花が乱れ咲いている」としたうえで、こう訴える。
 
 「高齢者は詐欺にあった後、寝込む。確実に死期が早まる。間接的な殺人だ。基本的には詐欺罪でやらなければだめだが、ありとあらゆる法令を発動して警察は対応すべきだ。一カ所で摘発しても別の場所で営業を再開する事例もある。情報を一元化し、全国一斉に摘発すれば効果がある。摘発に勝る啓発はなし、だ」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050510/mng_____tokuho__000.shtml