2005年05月05日(木) 03時09分
自治体に住基台帳閲覧制限の動き、悪用の実例判明で(読売新聞)
住民基本台帳の閲覧を制限する動きが、自治体に徐々に広がっている。
総務省も4月、有識者らによる閲覧制度の検討会を発足させ、今月11日に初会合を開く。
同台帳の閲覧は法律で認められているため、制限に慎重な自治体も多いが、市民団体は「犯罪に利用された実例もあるのに、漫然と閲覧させるのは無責任だ」と批判している。
住民基本台帳法では「何人でも閲覧請求できる」とされ、本人の同意なく第三者への個人情報提供を禁じた個人情報保護法は適用されない。企業がダイレクトメール(DM)を送るために、閲覧することが多い。
ところが、愛知県警が今年3月、強制わいせつ容疑で逮捕した男は、名古屋市内の区役所で台帳を見て、母子家庭、父子家庭で一人っ子の女子小中学生を狙っていたことが判明。閲覧請求の際、「音楽教室の案内をするため」とウソを記入していた。このケースのように虚偽の目的でも閲覧できる場合があり、振り込め詐欺などに悪用される可能性も指摘されている。
こうした中、熊本市が昨年8月、山口県萩市が今年1月、北海道苫前町が4月、さらに佐賀市が今月、不特定多数の住民情報の閲覧請求を拒否する条例を施行し、DM発送など商業目的の大量閲覧を事実上できなくした。静岡県三島市も今月中に、内規で同様の措置を取る。
萩市では毎年、通信教育の会社や成人式の着物を販売する会社などが、延べ4000〜5000人分を閲覧していたが、条例施行後の閲覧は2人分だけ。同市は「業者のクレームはない。そもそも住民の住所や氏名を役所が公開する制度は、おかしいのではないか」と話す。
こうした対応は「台帳の公開原則に照らすと無理がある」として、代わりに手数料の大幅値上げなどで大量閲覧をしにくくした自治体もある。
千葉県船橋市は、1世帯分200円の閲覧手数料を、7月から1人分300円とし、閲覧時間が1時間超えるごとに3000円を加算。閲覧場所も、市内6か所の出張所をやめ、市役所だけにする予定だ。鳥取県倉吉市は昨年9月、内規で閲覧できる住民情報を1日50人分に制限し、一度閲覧したら、半年間は閲覧できないことにした。
しかし、閲覧制限の強化に慎重な自治体も多い。名古屋市は強制わいせつ事件発覚後、閲覧請求者に身分証明書の提示と利用目的を裏付ける資料の提出を求めるようになったが、「近隣の自治体で閲覧でき、我が市で見られないのでは具合が悪い」と話す。札幌市も「地元の学習塾が生徒募集のために見る場合もあり、制限すると営業妨害になりかねない」と言う。
総務省の検討会は今秋をめどに、住民基本台帳法を改正すべきかなどについて結論をまとめる予定だ。
大量閲覧の禁止を求めている市民団体「情報公開クリアリングハウス」(東京)の三木由希子室長は、「住民基本台帳法の改正は当然だが、閲覧者のチェックなど最低限すべきことすらしない自治体が多い。住民の個人情報をどう考えるか、各自治体の姿勢が問われている」と話している。
◆住民基本台帳=市区町村が住民の住所、氏名、生年月日、性別の4項目をまとめたリスト。世帯別にしている自治体が多く、子どもが何人いるか、高齢者の単身世帯かなどの家族構成も把握できる。コピーはできないが、書き写すことは認められている。
(読売新聞) - 5月5日3時9分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050505-00000201-yom-soci