2005年05月05日(木) 03時04分
<過剰工事>3年間で数千万円分、認知症の老姉妹食い物に(毎日新聞)
埼玉県富士見市に住む80歳と78歳の姉妹が、複数の訪問業者に勧められるまま、この3年間で数千万円分のリフォーム工事を繰り返し、全財産を失った。姉妹は認知症で身寄りもなく、家が競売に掛けられて、初めて近所の人が気付いた。調査した建築士によると大半が不要な工事で、判断能力のない老姉妹が食い物にされた形だ。連絡を受けた市が裁判所に競売の中止を申し立て、業者側に対しては、近く債権放棄を求める方針。
姉妹は、未婚の元公務員と証券会社員。認知症で、今話したことも覚えていられないが、ヘルパーなども頼まず、2人で暮らしてきた。3月になって姉妹宅の購入を勧誘するチラシが配られ、不審に思った近所の人が市に通報して発覚した。
市の調べでは、姉妹に群がった業者と工事額は、契約書などから判明しただけで計14社・約5000万円。姉妹には少なくとも4000万円前後の貯蓄があったとみられるが、全額が引き出され、さらに約700万円が不足したため家が担保となり競売に掛けられた。競売は市からの申し立てで、入札締め切り当日、一時中止になった。
業者の中には、わずか11日間で5回・計673万円分の「シロアリ駆除」や「床下調湿」などの契約を結んだ会社もあり、最も多い業者は1社で2500万円分の工事をしていた。住宅のバリアフリー普及に取り組むNPO(非営利組織)「ピュアライフ・ネットワーク」が、市からの依頼で姉妹宅を調べたところ、ほとんどが不必要で過剰な工事だった。
同ネット理事長で一級建築士の石田隆彦さんは、「最近、お年寄りに不必要なリフォームを勧める悪質な業者が増えている。今回のケースでは、屋根裏はまるで補強金具の見本市。床下用の調湿剤が庭にまでまいてあった」と、その無軌道ぶりに憤る。
現在、市の消費生活相談員が家から契約書や請求書などを回収して被害額を集計中だが「姉妹に記憶がないうえ、チラシの裏に書いた領収書があるなど契約もずさんで、総額は更に増える可能性がある」という。
また、契約書の中には、業者名が違っても担当者名が同じものがあり、同一業者が名義を変えて契約を繰り返したケースもあるとみられる。高齢者や障害者の権利擁護団体「宮城福祉オンブズネット エール」代表の荒中(あらただし)弁護士は「業者間で顧客名簿を売買し、特定の被害者に業者が集まる『次々販売』の典型例。骨までしゃぶり尽くす構図になっている」という。
しかし、姉妹は家が競売にかかっていることも理解できない状態で、市が依頼した医師に認知症と診断された。近所の住民が食料などを差し入れて暮らしているが、年金支給日には、今も業者が集金に現れるという。
これについて、工事額が最も多い会社の社長は「姉妹は10年来の顧客で病気とは思わなかった。(受注額の)2500万円は多すぎると思うが、下請けが契約を取ったので、全部は把握していなかった」と釈明。返金については「即答できない」と答えた。【扇沢秀明】
(毎日新聞) - 5月5日3時4分更新
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