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個人情報保護法が4月から全面施行される。個人情報の管理が企業に厳しく義務付けられるが、個人情報の不正利用が横行している現在、「水と安全」と同様、個人情報も「ただ」で守られる時代ではなくなった。何気なく捨てた銀行などからの書類にも重要な個人情報が山盛り。一人ひとりが個人情報を守るための意識改革が必要だ。(田中夕介)
住民の氏名や生年月日などの個人情報が各市町村などで公開されている住民基本台帳の閲覧制度。住民基本台帳法第11条では、住民基本台帳データのうち「氏名・住所・生年月日・性別」については請求すれば原則、誰でも閲覧できる。閲覧した内容を書き写して持ち帰ることもできる。利用目的を制限している自治体もあるが、そうでない限り、ダイレクトメール(DM)を送る目的でも請求可能だ。
しかし、DMを使った悪質商法で行政処分を受けた業者などがこの制度を利用して大量の個人情報を入手していたことが、NPO法人「情報公開クリアリングハウス」(東京都新宿区、三木由希子室長)の調査で分かった。
政令市の区も含めた全国93市区町村で閲覧請求について調査、このうち51市区町村で、情報公開条例に基づいて台帳閲覧申請書を公開請求した。その結果、請求業者の中に、会員サービスの特典を口実に呼び出した若者を長時間勧誘し、パソコンソフトの購入を契約させたとして、東京都から特定商取引法などに基づいて行政処分を受けた業者がいた。
住基台帳法は、不正目的での閲覧申請、不正目的に閲覧情報が利用される恐れがある場合などは閲覧を拒むことができると定めている。調査では41市区町村で閲覧申請の際にDMや調査用紙、アンケート用紙など実際に発送などする現物の提出を求めていた。
しかし、「提出は『できれば』や、初めて閲覧にきた業者に初回だけ求めるなど、提出を義務付けているところは少なく、提出がなくても閲覧を認めているところが多くあった」(三木室長)。
閲覧業者の確認については、法人登記簿や会社概要、事業説明などの提示を求めていたのはわずか13市区町村。閲覧内容をコピーして残していたのは43市区町村だけだった。
三木室長は「閲覧用のファイルの並べ方は、多くのところが世帯順や住所順。世帯構成が提供されることで高齢者や女性の単身世帯、高齢者の2人世帯、若者の単身世帯など外部に流れることでリスクの高いリストの作成が可能」。その上で、「自治体が個人情報を売っていると思っている。持ち帰られた個人情報が流用・転用され、売買されている可能性も否定できない」と指摘する。
こうした中、東京都世田谷区では来年度から、区民税や軽自動車税、国民健康保険料の収納をコンビニエンスストアでも開始するのに合わせ、支払いの際にコンビニ店が保管する控え伝票に納税者の住所、氏名の記載をしないことを決めた。
個人情報保護の目的で、区納税課は「税額から収入額が推測される。第三者の目に触れる可能性のある個人情報は最小限にとどめる必要がある」と話す。
コンビニ最大手のセブン−イレブン・ジャパンによると、公共料金などの支払い受付金額は年々増加しており、昨年度は計約1兆3900億円。同社では以前から、控え伝票の管理・保管の徹底、名前・住所を別の情報として活用しないよう強く指示している。
「個人情報の保護・管理には自信を持っている」。こう話すのは、葬祭業「メモリアルアートの大野屋」(豊島区)情報事業推進室コンタクトセンターの尾崎一郎所長。
死亡届や死亡診断書を扱う葬儀業者には、故人の本籍や配偶者の有無、死因、死亡場所などの情報とともに、遺族の世帯構成や家族の職業など故人を含めた個人情報が入ってくる。個人情報保護法の全面施行を前に、同社では改めて個人情報の流れに沿って一つひとつのリスクについて細かく評価。マニュアルやルールを作成し、施錠や入退出管理などを徹底させた。
4月以降、5000人以上の個人情報を扱う事業者は情報の適正な取得や管理が義務付けられる。また住民も個人情報の取り扱いを不審に思ったら、事業者に開示を求めることができるようになるが、その前に情報漏れをどう防げばいいかを考える必要があるだろう。
安全生活防犯アドバイザーの佐伯幸子さんはまず、「不要なダイレクトメールは簡単に送り返してはいけない」と指摘する。赤い文字で「受け取り拒否」と書き、認め印を押した紙を張って返送し、リストから外してもらうことも一つの方法。さらに、「あて先人不明」などというように、その“住所”には居住していないとして送り返すこともいいと明かす防犯コンサルタントもいる。
ちまたでは、会員カード申し込みやアンケートなどで、自分の住所や名前、生年月日などを何気なく記入するケースが氾濫(はんらん)している。しかし、佐伯さんは「安易に自分から個人情報を提供してはいけない」と強調する。自分の情報がどこに流れ、どのように使われるか分からないからだ。
アンケートの際には住所の部屋番号の頭に『A』など、何らかの“暗号”を付け加えておくことも一つの対策。その住所で郵便物が届いた場合は、情報の流出元が分かる。さらに、佐伯さんがアドバイスするのは「仮名の勧め」だ。ファミリーレストランやカラオケで順番待ちをする際、あえて本名を書かなくてもいい場合は本名を書く必要はない。佐伯さんは「公的機関以外は仮名でもいい」と話す。
個人情報に詳しい吉野正弁護士は「自分のものは自分で守る。個人情報も自分のもの」と指摘、一人ひとりが自衛策を講じることの必要性を強調している。
≪家庭用シュレッダーが人気≫
個人情報の漏洩(ろうえい)による犯罪の多発、4月からの個人情報保護法の全面施行を控え、書類を簡単に裁断できる電動式の家庭用シュレッダーが売れている。
家電製品販売「ビックカメラ」(本社・東京)では年末からコーナーを拡大、約20種類を扱っている。売れ筋は7000円前後で、A4サイズまでの紙を縦横に切り、細かくしてしまうものが主流。また、「クレジットカードも粉砕できるシュレッダーも人気」(ビックカメラ有楽町店、市川邦明主任)という。
家庭から出るゴミによって、住所、氏名などのほか、どのような生活をしているかが判断できてしまう。買った日時が印刷されているコンビニエンスストアのレシートからは、一人暮らしかどうか、夜遅いかどうかなどが分かる。病院からもらった薬の袋からも通院先や病名などが推測できてしまうという。
佐伯さんは「名前や住所など重要な情報は黒く塗りつぶし、シュレッダーにかけて別々の日に捨てる。捨てるときもごみの回収直前に出したほうがいい」と話している。
■個人情報保護法 行政機関や民間企業に個人情報の適切な取り扱い義務や違反した場合の罰則などを定めた法律。4月から5000人以上の個人情報を持つ民間企業も含め全面施行。目的外利用や本人の同意のない第三者への提供などを禁じ、本人から請求があった場合には原則的に開示することが義務付けられる。違反した場合は6月以下の懲役か30万円以下の罰金。
【2005/03/05 東京朝刊から】
(03/05 08:31)