2005年02月23日(水) 15時06分
<医師NPO>「胃ろう」挿管ミス多発 昨年、15人死亡(毎日新聞)
腹から胃に開けた穴「胃ろう」に流動食用チューブを通す栄養管理法で、挿管ミスが原因とみられる死亡事故が多発している。02年に千葉県で起きた事故では、医師2人が業務上過失致死容疑で書類送検され、チューブのメーカーの説明書にない交換方法が記された病院作成のマニュアルが使われていたことも、毎日新聞の調べで分かった。医師らで作るNPO(非営利組織)「PEGドクターズネットワーク(PDN)」(事務局・東京都)には、同様のミスがあった病院などから、昨年だけで15件の死亡事故相談があった。患者の肉体的負担が少ない栄養管理法として急速に普及しているだけに、PDNは「知識や技術が不十分な医師による事故が多発しているとみられる。十分な知識を学んだ上で処置してほしい」と呼び掛けている。
千葉の事故は02年2月、船橋市立医療センターで、脳障害で入院中の女性(当時24歳)の処置中に発生。県警によると、管が誤って腹腔(ふっくう)内に挿入されて流動食が漏れ、腹膜炎から敗血症を起こして死亡した。胃ろうは消化器内科医が設置したが、管を交換した脳神経外科医と医療チーム責任者が書類送検された。
メーカーの説明書は腹壁と胃壁が癒着した後(目安は設置後1カ月)に管を交換するよう明記。だが、病院作成のマニュアルでは、最初の挿管後、1週間に2回、3週間で計6回、順に太い管に換えるようになっていた。事故報告書によると、脳神経外科医はマニュアルに従って行った3回目の交換でミスした。
同センターは胃ろうによる栄養管理法を96年から導入したが、マニュアルは「誰がいつ作成したか分からない」という。事件後、「マニュアルにも問題があった」として作り直している。
PDN代表理事で、東京慈恵会医科大外科学講座の鈴木裕講師は「胃ろうの壁が不安定な時期に管を交換すると、別の場所に入り込みやすいため、内視鏡などの確認のもとに行うのが好ましい」と話す。PDNに相談のあった15件はすべて管が胃ではなく、腹腔内に入ったケースばかりで、どの病院も原因すら分かっていなかったという。鈴木講師は「チューブ交換は基本を誤ると重大な事故につながる危険がある。セミナーなどによる知識向上が必要」と訴える。
また、東京大医学部付属病院(東京都文京区)は02年7月に胃ろうの外来担当を設置。担当の山口浩和医師は「別の医師が設置した胃ろうの向きを把握するのは難しい。担当者を決め、連携して設置と交換をしたほうが、安全とコスト面で優れている」と理由を説明する。【中川紗矢子】
【ことば】「胃ろう」栄養管理法 PDNによると、胃ろうによる栄養管理法は79年に米国で開発された。鼻から流動食を入れるより、経済的で患者の苦痛も著しく軽減されるため、国内では95年ごろから普及。矢野経済研究所(本社・東京都)の調査では、胃ろう設置用チューブは、01年から4年間で30万1320セットが販売された。
胃ろうに関する学会はなく、厚生労働省など公的機関による実施マニュアルも作成されていない。PDNは胃ろうに関する情報提供を積極的に行っており、昨年、実施方法のテキストを作成したほか、全国規模のセミナーも始めている。
「ろう」は「瘻」と表記。瘻管は胃などと体外を交通させるため手術で作る導管のこと。
(毎日新聞) - 2月23日15時6分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050223-00000066-mai-soci