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討論会は、医療ジャーナリストでメディオ副議長の伊藤隼也さんが被害者の代弁役として質問、弁護士の大森夏織さん(医療問題弁護団)、医師の南淵明宏さん(大和成和病院心臓外科部長)が答える形で進んだ。
討論の中で、まず指摘されたのが「基準」や「定義」のあいまいさだ。
南淵さんは「医師にどれだけの技量があれば、どの手術をしていいのかという基準があいまい。標準医療がないまま、ばらばらな形でなされている」という。医療事故をめぐる問題を複雑にさせている要因だ。
大森さんは、そもそも「医療事故」について厳密な定義がないことを説明した。手術には必ずリスクが伴う。患者が手術で死亡してもすべて医療側の責任とはならず、裁判では「有責性」が問われることになる。
「遺族は医療過誤だと思うのは当然だが、裁判で医療側の責任が認められるかは別」と大森さんは説明し、カルテなどの「証拠保全」の大切さを強調した。医療機関に直接、カルテ開示を求める方法もあるが、検査の画像データや手術を録画したビデオが残っているケースもあり、証拠保全の方がより確かだという。
弁護士費用に関する説明もあった。
大森さんによれば、医療問題弁護団では、証拠保全から医療側の責任を問えるかどうか判断するまでの調査契約で「三十万円プラス消費税」が標準だが、その後の提訴時の費用は、ケースによって大きく異なる。費用がなくて提訴をためらう人は、法律扶助協会で立て替えてもらい、後で返済する選択肢もある。
弁護士の契約料もさまざまなので、調査内容と費用をよく検討して依頼することが大事。その弁護士が医療訴訟に通じているかも重要な要素だ。
多くの医療事故訴訟で、原告側が求めるのは医療機関の謝罪だ。しかし、勝訴しても、損害賠償請求では、負けた側が必ずしも謝罪する義務はないため、原告側にむなしさが残る例もある。
伊藤さんが強調したのは、報道されることの大切さ。「勝訴した事実が公になり、社会的な問題提起にもなる」と原告の達成感につながることを強調した。和解で決着するケースでも、文書に謝罪の文言を盛り込むように求めることもできる。
法的手段以外に、将来的に期待されるのは、第三者機関によるADR(訴訟外紛争処理)で被害者救済を図るシステム。住宅トラブル、消費者問題などでみられる取り組みで、医療事故の分野でも模索中だ。弁護士会が仲裁を務め、解決したケースも出ている。
■お金より『説明ほしかった』 医療事故被害者ら
納得のできる説明がほしかった−。メディオが医療事故の被害者や遺族らを対象に実施したアンケート(有効回答二百四十一)からは、当事者の切実な思いがにじむ。
証拠保全や提訴など法的な行動を取った人に、その理由として「とても当てはまる」ものを選んでもらったところ、表のようになった。経済的な補償より、事実解明とその責任を問いたいという願いが強い。「他に責任を追及する方法がない」という回答の多さも目立つ。
事故後の病院の対応については「事故自体より、対応が許せなかった」が55・6%と圧倒的。「十分な補償があれば納得できた」は12・5%、「こちらの気持ちに配慮してもらえた」は0・9%にとどまった。
■10年で倍増
最高裁判所によると、二〇〇三年までの十年間で新たに起こされた医療関係訴訟の推移はグラフの通り。十年でほぼ二倍に増えている。
医療訴訟に特徴的なのは、認容(勝訴・一部勝訴)率が通常訴訟より著しく低いことだ。〇三年の地方裁判所の認容率は通常訴訟が85・2%なのに対し、医療訴訟は44・1%。十年間で通常訴訟は85%前後で推移しているが、医療訴訟は三、四割にとどまっている。背景に、医療の専門性や密室性の高さ、原告側に立つ医師の確保の難しさなどが挙げられる。
もうひとつは審理期間の長さ。九四年の平均審理期間は四一・四カ月で、〇〇年も三五・六カ月に達していた。
これらを受けて〇一年、東京地裁と大阪地裁に医療訴訟を専門に扱う「医療集中部」が発足。現在は名古屋、千葉、さいたま、横浜など計八地裁に置かれている。〇三年の平均審理期間は二七・七カ月まで短縮された。だが、集中部のない地裁や難しい事例ではまだまだ審理期間は長く、精神的な負担も重くのしかかっているのが実情だ。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20050217/ftu_____kur_____001.shtml