2005年02月13日(日) 10時39分
<住民票>転出入偽装 知らぬ間に借金130万円(毎日新聞)
本人が知らない間に住民票を移される事件への対策で、顔写真付き身分証明書による本人確認が全国の自治体の窓口で義務づけられることになった。「確認を徹底すると事務が遅れる」などの理由で対策に及び腰だった自治体。住民票を悪用された東京都中野区の男性(23)は「事態を真剣に受け止める意識がない」とこれまでの姿勢に怒りをぶちまける。相次ぐ犯罪に歯止めはかかるのか。【夫彰子】
「中央区に転出したそうですが」。男性が「被害」に気付いたのは昨年5月24日にかかってきた国民年金に関する社会保険事務所からの問い合わせ電話だった。2カ月ほど前の3月に中央区への転出届が出されており、電話の2日後には、消費者金融から30万円の返済を求められた。身に覚えのない借金は計3社から130万円に上った。自分名義の知らない携帯電話が3台存在し、通話料などの請求は約10万円になっていた。
問い合わせると、中野区では転出届が出される前、男性の代理人を名乗る男が2回、「携帯電話購入」と「銀行提出」を理由に、委任状で住民票の写しを請求していた。住民票を取った男が転出届を出した男と同一かどうかは分からない。
転出届の男は、この住民票で作ったとみられる本人名義の偽のキャッシュカードを窓口で提示したため、区役所職員は干支(えと)を聞いただけで済ませていた。しかし、干支は偽の代理人が入手した住民票を見れば一目瞭然(りょうぜん)だった。
消費者金融では、転入先の中央区発行の国民健康保険証と、偽のキャッシュカードが提示され、男性の勤務先として埼玉県川越市の「会社」名を記した書類が出された。応対した社員も当時、電話で「会社」に確認したという。だがその「会社」は実在しないことが後になって分かった。
借金返済の請求に対し、区から転出入届の無効手続きを取ってもらい、男性が実害を被ることはなかった。一方、法律上の被害者となる中野区などは「本人確認を徹底的にしようとすれば業務の停滞を招く」などとして、事実上「限界」を認めている。男性は「本人確認の義務づけは評価できるが、個人情報を悪用されても自治体は不利益を被らないので、どこまで真剣に確認するかが重要だ」と話している。
警視庁が昨年摘発した偽転出入届の事件では、中野区の男性が00年に卒業した都立高校の卒業生約20人が「被害者」になっていた。手口などから、男性も同一犯行グループの被害に遭った可能性が高い。警視庁などは逮捕、起訴された川崎市の無職、古知晋被告(22)を追及している。
調べでは、古知被告はインターネットでのアルバイト募集に応募した。「さぶちゃん」と名乗る男から指示され、卒業生の1人が住む武蔵野市から渋谷区への転入届を出し、保険証を入手。消費者金融で10万円借りたとされる。古知被告は「(本人を装うため使った住民票の写しなどは)さぶちゃんから渡された」と供述。警視庁は犯行グループが▽住民票の入手▽転出入届の提出▽架空会社の社員——などの役割を分担していたとみる。
ただ、古知被告が連絡用に渡されていた携帯電話も別人になりすまして契約されており、捜査員は「偽物ばかりで、組織を解明する手がかりがない」と嘆く。
(毎日新聞) - 2月13日10時39分更新
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