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2005年02月02日(水) 17時40分

『iPod』が生む新ユーザー層「サイボーグ消費者」WIRED

 「『iPod』(アイポッド)教授」と言えば、これまでは、 http://www.sussex.ac.uk/mediastudies/profile119032.html サセックス大学の講師であるマイケル・ブル博士を指していた。ブル博士は、 http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20040227202.html デジタル・エンターテインメント機器の社会的影響(日本語版記事)に関する学術研究の第一人者と目される。だが、ブル博士の独壇場かと思われたこの分野に、最近ライバルが現れた。第2のiPod教授の誕生だ。

 それは、カナダのトロントにあるヨーク大学の http://www.markus-giesler.com/ マルクス・ギースラー助教授(マーケティング)。レコード・プロデューサーの経歴を持ち、レーベルも所有していた http://www.wired.com/news/images/0,2334,66426-17292,00.html ギースラー助教授(写真)(28歳)は、テクノロジー、消費、マーケティングにまたがる広範な研究と執筆を続けており、ハイテク機器ユーザーの研究でにわかに脚光を集めている。ギースラー助教授が発表した論文のテーマは、 http://www.napsterresearch.com/ 『ナップスター』の贈与経済、オンラインでのファイル共有のリスク、「ポストヒューマン(人間後)の消費者文化」と多岐にわたる。

 ギースラー助教授は現在、iPodユーザーとその音楽鑑賞の傾向について研究を進めている。助教授はウェブサイト『 http://www.ipodstories.com/ iPodストーリーズ』を立ち上げ、iPodの消費にまつわる体験談を募集しており、集まった話をもとに『われiPodす、ゆえにわれあり』(iPod Therefore I Am)と題した民族誌学的論文を書く予定だ。

 ユタ大学で消費者行動を研究する http://home.business.utah.edu/~mktrwb/ ラッセル・ベルク教授によると、ギースラー助教授は、ハイテク機器ユーザーの行動を研究するトップクラスの専門家として認められているという。

 「おそらく、マーカス(・ギースラー助教授)にとって、CMソングの調べをつむぎ出すことは、音楽家としての成功だったのだろう。だが彼には、人間とテクノロジーの調和と不調和を見つけ出す才能もある」とベルク教授は話す。

 ギースラー助教授の予備的な研究によると、iPodは単なる『ウォークマン』の進化形ではないという。iPodはまったくの新種であり、ギースラー助教授が「技術超越」(technotranscendence)と呼ぶプロセスを経て、ユーザーを「サイボーグ」に変えてしまう革命的な機器なのだ。

 iPodはウォークマンと異なり、「複合エンターテインメントのマトリックス世界」に入り込む。この世界では、シャッフル再生のような機能が重要な構成要素となり、単なる魅力的な商品では終わらない。

 ギースラー助教授は「iPodとユーザーが1つのサイバネティクス的単位を形成しているのだ」と話す。「われわれがサイボーグを語るときは、つねに文化理論やSF文学が絡んでいるものだが、これはサイボーグが市場にも実在するという好例だ……。こうした人々に、私は未来を見ている。彼らはサイボーグ消費者と呼ばれる存在だ」

 ギースラー助教授によると、サイボーグ消費者とは、携帯電話から『バイアグラ』にいたる多様なテクノロジーを利用し、なおかつ技術的、社会的に、ネットワークとの強い繋がりを持っている人々だという。

 たとえば、iPodは単なるMP3プレーヤーではなく、記憶の拡張でもある——人生のサウンドトラックを保存し、名前や住所、カレンダー、メモも記録する。

 ギースラー助教授は、iPodユーザーが自分のiPodに名前を付け、体に密着させて携行することに注目する。ハードディスクの振動が、この機械に生きているような感触を与えているのだ。

 「iPodが自分の一部になってしまったという言葉をよく耳にする」とギースラー助教授は話す。「iPodはもはや機械でも道具でもなく、自分の一部になったのだ。身体の拡張であり記憶の一部となっている。もし紛失したら、アイデンティティーの一部を喪失するのと同じだ」

 iPodのような技術を駆使した製品はユーザーの「技術超越」を可能にすると、ギースラー助教授は主張する。ビデオゲームで遊ぶ子どものように、テクノロジーを使用することで、消費者は時空——今、この場所——を超越する。

 「彼らはテレビの前に座っているのではなく、ゲームの中にいる。まさに技術超越の状態だ。ゲームのテクノロジーを通じ、テレビの前で自らの存在を超越している」

 ギースラー助教授によると、iPodは「複合エンターテインメントのマトリックス世界」に接続している——つまり、iPod、コンピューター、インターネット、オンライン音楽ストア、ファイル交換ネットワークなどがその一部を成す複合的なネットワークに繋がっているというのだ。

 「この世界にいる消費者は、消費行動に影響を与えるあらゆる種類のテクノロジーやネットワークと繋がっている。そしてその結果、消費パターンが変化する。たとえば、インターネットでは物質から情報へ、ファイル交換では所有からアクセスへ、iPodではパターンからランダムへと変化する」

 米アップルコンピュータ社は、iPodと、それを管理するソフトウェア『iTunes』(アイチューンズ)、新しい音楽を購入するオンラインストアの組み合わせで、この新しい枠組みを実証している。

 「アップル社はこのことを理解していた」とギースラー助教授は語る。「アップル社はiPod、コンピューター、音楽ストアという複合エンターテインメントのマトリックス世界を販売している。iPodはたしかに重要だが、相互接続がなければ本当に便利とは言えない。相互接続が実現してはじめて、素晴らしさを発揮するのだ」

 ギースラー助教授は、このエンターテインメントのマトリックス世界との繋がりが消費パターンを変えていると指摘する。たとえば、シャッフル機能は単なる音楽鑑賞の斬新な方法を超え、デジタル・エンターテインメントの重要な要素となっている。

 ギースラー助教授によると、iPodユーザーは曲単位のやり取りをやめ、音楽や映画の巨大なライブラリーが収まったハードディスクごとの交換を始めているという。こうしたライブラリーをどのように使っているかを何人かのユーザーに尋ねたところ、無作為にアイテムを選んでいるという回答が一番多かった。

 「シャッフルモードはもともと斬新な仕掛けに過ぎなかった。それが今では、そうしなければ失われかねない情報にアクセスするための最も有効な方法になっている。消費の複雑さを軽減するサイボーグ消費の戦略だ」とギースラー助教授は語った。

[日本語版:米井香織/高森郁哉]

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(WIRED) - 2月2日17時40分更新

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