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「最後まで読む時間がまったくムダだった」
あるNHK職員があきれる。海老沢氏が辞任した二十五日、全職員向けに出された「若い力に期待する」と題されたメールを読んでの感想だ。
メールはA4判にすると六枚。これには就任中「デジタル放送の普及と定着に先導的な役割を果たしてきました」などと実績を強調。また「『何かあったらNHK』という視聴者・国民の皆様から寄せられる厚い信頼があります」などの自画自賛が大半を占める。
そこには不祥事を招いた企業体質や執行部の責任についての説明や謝罪はない。逆に「『巨大化、商業化、民業圧迫』といったNHKの躍進を妬(ねた)む一部マスコミ等の言われなき誹謗(ひぼう)中傷や不当な攻撃に屈することはありません」と報道姿勢に批判が集まっていることに対し、開き直りともとれる主張を展開している。
前出のNHK職員は「年頭の職員へのあいさつでも海老沢氏は『誹謗中傷に屈せず』と同様なことを言っていた。辞任したが、まったく反省していない」と憤る。
そこに顧問就任が決まり、さらに波紋は広がる。顧問は、NHKの特殊法人の定款で、会長が必要と感じた場合に、会長が任命することができると定めている。NHK広報局によれば、今回も「橋本会長が委嘱。会長の求めに応じて助言や意見を述べる」。現在顧問は今回就任した海老沢氏、笠井鉄夫前副会長、関根昭義前放送総局長の三人を含め七人。
ただ、一九八九年に国会での不用意発言などから辞任した池田芳蔵氏や、九一年に国会での答弁が問題化し辞任した島桂次氏は、顧問には就任していない。不祥事がらみで任期途中で辞めた海老沢氏の就任は、異例と言えそうだ。
それだけに顧問就任をめぐっては、経営陣と刷新を目指すNHK経営委員会との間で既にあつれきが露呈している。
三氏が顧問に就任した二十六日は、経営委に報告もなかった。石原邦夫委員長は二十七日になって「この件は、そもそも経営委としては関与する事項ではないが、現会長から本日、経営委に報告があった。その際、視聴者、国民に十分、顧問制度を説明して、誤解のないようにお願いしたいと申し上げた」と早くも新会長に注文を付けた。
■日放労は批判「委嘱撤回を」
視聴者にも反発が出ている。「組合には朝から『顧問就任はおかしい』『院政を許すな』という視聴者の電話がたくさんかかっている」と話すのは、日本放送労働組合(日放労)の岡本直美中央書記長だ。
「通常なら顧問は、慣例で委嘱されてきたもので、重い立場ではなく、委嘱には反対しない。が、これだけの問題になり、経営を刷新することで改革のスタートに立つ時であり、顧問の委嘱撤回を新会長に申し入れざるを得ない」
労組が警戒するのは、新体制に対し“院政”を狙っているとの懸念があるからだ。日放労関係者は「海老沢さんには、自分の責任を痛感して辞めたという感じがしないし、海老沢さんにものを言ってこなかった人も経営陣に残っている」と指摘。受信料集金人の全日本放送受信料労働組合の組合員も「政治介入問題の責任を回避し、院政を敷くために会長を退いたととられても仕方ない」と話す。理事の大半は四月に任期満了となるが、退陣するか懐疑的だ。
この指摘にNHK広報局は「院政という指摘はあたらない。NHKの業務に貢献した海老沢氏の経験や見識などに基づく意見を、今後のNHKの業務運営に少しでも役立てたいという考えからの顧問委嘱。新会長がさまざまな方から意見をうかがうのは当然で、それによって執行部の判断や決定が左右されるものではない。経営方針などは、あくまで新会長自身が最終的に決める」と話す。
過去には“傀儡(かいらい)”とやゆされた例があった。池田会長時代だ。経営評論家の梶原一明氏は「池田氏は当時の経営委員長の磯田一郎住友銀行会長の意向で就任したが、放送分野の経験がないことから、任期途中で辞任に追い込まれた」。この間、政治部記者だった島桂次副会長が影響力を強めたとされる。
NHK問題に詳しいジャーナリストの横田一氏は一連の人事について、「職員に取材すると、海老沢氏の影響を温存する人事で、橋本会長は傀儡という見方がもっぱら」と指摘した上で、「橋本氏は技術畑で、海老沢氏が推進するデジタルハイビジョンを進め、海老沢氏から優遇された部署の人。橋本氏は代打で、ほとぼりが冷めたら(会長に有力視されている)諸星衛理事という流れが透けて見える」と話す。
院政を敷ける力の源泉についても横田氏は「イエスマンを配置してきた実績。さらに海老沢氏が進めてきたデジタル放送の市場は、六兆円市場ともいわれ、その分野では発注に対し発言力もある。郵政、IT利権に関係する政界の人たちともうまくやっている」と指摘する。
先のNHK職員も「いずれ諸星氏が会長になると現場では思われている。だが、エビの養殖場(海老沢体制下)で育った幹部だから、成長してもエビ。体質は変わらない」と批判する。
梶原氏は「海老沢氏の顧問就任は、監督官庁の総務省や自民党の内諾も得たのだろう。だとすれば、政府・自民党としても、NHKをこのままの体制で残そうという気持ちが働いているのではないか。問題になっている政治や自民党との距離の近さが、“院政”を生む土壌にもなっている」と指摘する。
■「受益者負担の仕組み確立を」
改革に向け本来議論すべきことは別にある。NHKに詳しい経済ジャーナリストの町田徹氏は「会長をすげ替えるだけでは難しい。予算の国会承認をはじめ政治に影響されやすい今の受信料制度を見直すのが筋だ」という。
「今は衛星放送のように『受益者負担型』の有料放送がどんどんできているのだから、NHKも(政治とは独立した)受益者負担の仕組みをきちんとつくるべきだ」と指摘、実際多チャンネル化でNHK受信料の負担強制はおかしいと思う人が増えたと分析する。
三月末までの受信料支払い拒否は約五十万件、七十二億円の減収と見込まれている。評論家の室伏哲郎氏は懸念する。「受信料拒否の理由をつくっている本人が影響力を保ったままの体制は、市民常識では考えられない。顧問の報酬は、また受信料から支払われるのだから視聴者の不信は強まる。支払い拒否は、五十万件にとどまらず、ますます増えるのではないか」
■役員・顧問と出身分野
会 長 橋本元一・技術
副会長 永井多恵子・アナウンサー
理 事 出田幸彦・番組制作
(放送総局長職代行)
安岡裕幸・旧郵政省
宮下宣裕・番組制作
和崎信哉・番組制作
野島直樹・報道(政治)
中山壮介・報道
諸星 衛・報道(政治)
三宅 誠・技術
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顧 問 海老沢勝二前会長・報道
(政治)
笠井鉄夫前副会長・経理
関根昭義前放送総局長・報道
(経済)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050128/mng_____tokuho__000.shtml