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■受信料不払い45—50万件
政治記者出身の海老沢氏は、一九九七年に会長に就任。「改革と実行」を掲げ、業務を徹底的に見直した。受信料を据え置いたまま、国策ともいえる放送のデジタル化を進めるなど、強いリーダーシップを発揮した。
しかし、昨年来の一連の不祥事とその後の対応に視聴者が反発。受信料の不払いは、今年三月末で四十五万−五十万件にまでふくらむ見通しとなった。新年度予算では、受信料の七十二億円減収が計上され、NHK史上初の前年度比マイナス。このため総務相に予算案を提出した段階で、経営責任を取る形となった。
辞任会見で、海老沢氏は在任中の実績を強調。「抜本的改革の道筋はできた」とした。
一方、NHKは同日発表した改革案で、初めて不祥事の温床となった番組制作費の内容を公表すると明らかにした。
新会長の橋本氏は一九六八年に東京工業大学理工学部を卒業し、NHK入局。名古屋放送局企画総務室部長、技術局計画部専任部長、技術局長、技師長などを歴任した。
NHK生え抜き会長は六人目だが、報道畑、番組制作畑でもない技術畑からの起用は初めて。石原経営委員長は「現在のNHKの問題点を的確に把握し中立的に判断できる人を選んだ」と白羽の矢を立てた理由を説明。番組改変をめぐって朝日新聞と対立している問題と、今回の人事は関係ないと述べた。笠井副会長の後任には、解説主幹を務めたNHKのOGで、世田谷文化生活情報センター館長の永井多恵子氏が決まった。
■解説 視聴者本位の公共放送を
三期七年半にわたった「海老沢体制」が、終わりを告げた。敏腕会長ともいわれたが、その実体は何だったのか。
従軍慰安婦に関する番組(二〇〇一年に教育テレビで放送)への政治的圧力が指摘された問題をめぐり、NHK側は「事業計画などに付随して、今後の放送番組を政治家に説明するのは、通常行われている」との見解を示した。予算の執行に国会の承認が必要な特殊法人とはいえ、他の報道機関では考えられない「配慮」だった。
NHKと政治との微妙な距離は、一九九七年に政治部出身の海老沢氏が会長に就任してから、近くなったともいわれる。関係者は「直接予算に関係のない政治家にまできめ細かい配慮をするのが海老沢流」という。
「番組が政治的圧力で改変された」と告発した長井暁チーフプロデューサー(42)は「政治家と一体化できる人が偉くなっている。(こうした人が)経営に携わることを制御する仕組みは取れないか」と訴える。
放送界では「国家的事業」といわれるアナログ波からデジタルへの移行作業が、二〇一一年を目標に進む。おおむね順調とされるのは、NHK会長の強力なリーダーシップ、政治力が貢献しているとも言える。
しかし、海老沢体制の下で、視聴者に向き合うべき公共放送が、いつしか政治家に顔を向けていた面は否めない。「皆さまのNHK」が本当の意味で再生するのは、海老沢氏の“遺伝子”を完全に排除できるかどうかにかかっている。
(放送芸能部・井上幸一)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sei/20050126/mng_____sei_____001.shtml