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◇だまされない、おばちゃんの秘けつ
「振り込め詐欺」の被害が広がる中、「大阪のおばちゃん」の存在が注目されている。恐れを知らぬおばちゃんパワーが、なりすまし電話を撃退し、被害予防に一役買っているという。「ケチで財布のヒモが固いから」なんて声もチラホラ。詐欺に負けないおばちゃんの秘けつとは?【小国綾子】
■過半数がニセ電話撃退
犯罪件数では全国トップクラスの大阪府で、なぜか「オレオレ詐欺」や架空請求詐欺、融資保証金詐欺などの「振り込め詐欺」の被害が極端に少ない。
警察庁によると、昨年1〜10月の「オレオレ詐欺」の被害は全国で7726件、総額は約150億円に上る。しかし大阪府では77件、1億6700万円。全国のわずか1%に過ぎない。
ちなみに大阪府のひったくりや車上狙いは全国最多。犯罪全体をみても、大阪府は全国の刑法犯罪の認知事件数の約10%を占め、トップの東京都(11%)とほぼ並ぶ。それなのに、なぜか「振り込め詐欺」の被害だけが少ないのだ。
それだけで驚いてはいけない。大阪人は「オレオレ〜」で始まるなりすまし電話をかなりの割合で見事に撃退している。
大阪府の「オレオレ詐欺」の認知事件数は昨年1〜10月で169件だが、実際に被害にあったのは77件、全体の46%に過ぎない。つまり過半数の人がだまされずに済んでいる。一方、全国の同時期の認知事件数は1万2424件で、被害があったのは7726件。だまされた人は62%に上る。
詐欺グループの多くが大阪弁を流ちょうに操れないため、電話の段階で怪しまれてしまうこともあるようだが、それにしても底知れぬ大阪パワーである。
■静岡ではCMも
「大阪はオレオレ詐欺の被害、めっちゃ少ないんやでえ!」「さすが大阪や。静岡県の人も気いつけや!」「犯罪やでっ!」
3人のおばちゃんが大阪弁で口々にがなりたてるこのCM、静岡県が「振り込め詐欺」の被害防止を呼びかけるために制作した。登場する3人の女性は、大阪のプロダクション所属の正真正銘の「大阪のおばちゃん」だ。
昨年12月10日〜今年1月10日まで静岡県内の民放4局で放映された。「気候が温暖で穏やかな県民性が指摘される静岡だが、振り込め詐欺ではぜひ大阪人のパワーを見習おう、と作った」(広報室)という。
ちなみに静岡県の「オレオレ詐欺」の被害は全国の2・5%。刑法犯全体(認知事件数)では大阪の4分の1しか事件がない県なのに、「オレオレ詐欺」だけは大阪の2・5倍というわけだ。
CM効果かどうか、静岡県では振り込め詐欺の被害が減った。放映前の昨年11月の被害は12件2600万円だったのが、放映が始まった12月は8件1129万円に。
広報室の内藤圭吾さんはいう。「CMへの反響? 県民のみなさんからは特になかったのですが、なぜかCMを放映してない大阪からは届きました。『おもろい!』から『大阪をばかにしている』までいろいろ。でも一番驚いたのは『このCMにはオチがない。大阪のCMだったら絶対にオチを付けるぞ』というおしかりの声でした」
さすが、大阪。
◇ウソを見抜く目と耳あり−−「上方芸能」誌代表・木津川計さん
大阪で振り込め詐欺被害が少ないのはなぜなのか。大阪文化に詳しい「上方芸能」誌代表、木津川計(きづがわけい)さんに聞いた。
◆ ◆
「振り込め詐欺」の被害が極端に少ない、というのは、いかにも大阪らしい話です。でも「大阪のおばちゃんはケチだから財布のヒモが固い」というような単純な理由ではないと思います。
大阪の女性は言わば「母親型」です。一方、神戸の女は「恋人型」、京都の女は「貞女型」。例えば男の浮気を知った時、恋人型の神戸女は男を許さない。ケンカざたになる。一方、貞女型の京女はさめざめと泣くばかり。愁嘆場ですね。
それに比べ、母親型の大阪女はどうするか。こんな川柳が大阪にあります。「だまされたげる必死のウソやから」。つまり、男の言い訳の中にうそを見抜き、全部分かっていながら、だまされてやる。平和的休戦に持ち込む。
大阪の女はケチだからではなく、ウソを見抜く目と耳を持っているから詐欺にひっかかりにくいのです。
また、大阪は犯罪であろうと何であろうと、オリジナリティーのあるアイデアに感嘆する土地柄です。カップラーメンも「動く歩道」も大阪発ですからね。
他県の人なら「振り込め詐欺」のニュースを聞いても人ごとか、せいぜい「だまされないようにしよう」と思うだけでしょう。でも、大阪人は違う。「うまい手や。えらいやつが出てきよったなあ」とまず感嘆する。だから被害情報も記憶に残る。情報が身につくのです。
そもそも「振り込め詐欺」は、大阪でやるには向きませんね。昔から「生き馬の目を抜く街」といわれた大阪ですから、みんなだまされないよう常に警戒しています。ひったくりや車上狙いが大阪に多いのは、なぜか。無言でやる、堅いガードの一瞬を突く犯罪だからです。
一方、「振り込め詐欺」は「一瞬」では済まない。「オレオレ」から始まる一連の説明が必要ですから、大阪のおばちゃんにもうそを見抜く余裕ができるわけです。
知人の60代の大阪の女性にも「振り込め詐欺」の電話がかかってきました。「オレやオレや」「オレってあんた誰や」「オレやがなー」「名前言わなわからんやろ」「あの〜、○○さんと違いますか……」「実家に電話すんのに、『○○さん』というアホがおるかー!」。女性が怒鳴った途端、電話はガチャンと切れたそうです。
大阪の女をだますなら、一瞬を突かないと無理ですね。
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