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2008年11月30日(日) 08時01分

インド同時テロ 実行犯正体は… ホテルに「司令室」 綿密な計画産経新聞

 □パキスタン過激派の影

 インド同時テロの犯行グループの正体は、発生から3日近くたった今も、謎に包まれたままだ。そうした中で、一味の背後に、隣国パキスタンのイスラム過激派の影がちらつき始めた。現地と欧米での報道を基に、犯人像を探ってみた。(岩田智雄)

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 インドのシン首相は、犯行グループが近隣国に拠点を置く武装グループだと非難し、ムカジー外相は「パキスタンの勢力が襲撃に関与した」と指摘している。

 29日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は米情報当局者やテロ対策担当者の話として、カシミール地方に拠点を置くイスラム過激派の「ラシュカレトイバ」か「ジェイシモハメド」の犯行であることを示す証拠が多数、見つかっていると伝えた。ただし、当局者らは、パキスタン政府自体が犯行に関与した証拠はないとしているという。インド情報当局者は同紙に、グループが国外の携帯電話を使い、外国から通話を受けていたと証言した。

 また、同日付の米紙ワシントン・ポスト(電子版)は、拘束した犯人の一人がラシュカレトイバのメンバーで、この組織に訓練を受けたと供述したと報じた。

 ■20代中心か

 事件直後、タージマハルホテルから脱出した客らの証言では、犯人たちは20代とみられる若者が中心で、Tシャツやジーンズ姿の者もいた。インドでの報道によると、拘束された21歳の男はきれいにひげをそり、流暢(りゅうちょう)な英語を話した。

 別の報道によると、拘束されたある男はパキスタンの国語ウルドゥー語を話し、言葉のなまりから同国パンジャブ州のファドリコット出身とみられている。所持品から、英国やモーリシャスの身分証明書が見つかったとの報道もある。

 ■周到に準備

 犯行グループはホテル襲撃などに際し、入念な準備をしていた。28日付のタイムズ・オブ・インディアによると、犯行グループのうち9人が数カ月も前から、ムンバイ市内にアパートを借りて住み着き、襲撃先となったタージマハルホテルなどをしばしば偵察に訪れていた。ほとんどがパキスタン人だったが、マレーシア人を装っていたという。

 一部は、事前にホテルにチェックインし、ホテル内をくまなく撮影してもいた。ホテルの構造に精通しており、特殊部隊さえ存在を知らなかった隠し扉を通って、内部に潜伏した。

 現場から見つかったグループの所持品のリュックサックには、50発ずつの弾丸が隠された6、7冊の雑誌と、衛星電話、クレジットカード8枚、現金1200ドルと6000ルピー(計約12万6000円)、長期戦に備えるための食料のアーモンドなどが詰まっていた。

 ■海岸から上陸

 襲撃直前、グループのうち8人が海から侵入した。沖合でインドのトロール漁船を乗っ取って船長らを殺害した後、沿岸まで接近、黒や黄色のゴムボートで上陸した。襲撃に加わった数は10〜16人だという。英BBC放送(電子版)によると、犯行グループは上陸後、2〜4人の4班前後に分かれ、鉄道駅やレストラン、ユダヤ人施設、病院を襲撃した後、2つの高級ホテルなどに立てこもった。

 ホテルを包囲したインド治安部隊は、犯行グループの制圧に60時間も要した。「軍人か、訓練を受けた特殊部隊要員のような動きを見せた」(ヒンドゥスタン・タイムズ紙)からだ。

 フロアからフロアへ火を放ちながら移動、手投げ弾やAK47自動小銃の扱い方も、相当の訓練を積んでいたようで、手慣れたものだった。ホテル内には「司令室」(米CNNテレビ)まで置かれたという。犯行グループはこのほか、プラスチック爆弾でも武装していた。

 ■ゲリラ型作戦

 こうした犯行の手口を29日付の英紙フィナンシャル・タイムズ・アジア版は、国際テロ組織アルカーイダの手口と比較して論じている。米国人や英国人を標的にし、同時多発的にテロ攻撃する点はアルカーイダの手口と共通する。だが、アルカーイダが米中枢同時テロでみせたハイジャック機によるビル突入を含む自爆テロ型ではなく、銃や手投げ弾を使うゲリラ型のテロ攻撃は20〜30年前にみられたもので、同紙は「基本に戻っている」としている。

 テロ問題の専門家は同紙に「爆発物を作るよりも、小火器を使ってテロリストを訓練した方がはるかに容易で、銃は爆発物よりも移動させやすい」と今回の手口の特徴を指摘している。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081130-00000043-san-int