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2008年11月30日(日) 02時31分

<元次官宅襲撃>「アキバ」ほうふつ きっかけ理解不能毎日新聞

 元厚生事務次官宅連続襲撃事件で、さいたま市北区の無職、小泉毅(たけし)容疑者(46)=銃刀法違反容疑で逮捕=が警視庁に出頭して29日で1週間がたった。警視庁と埼玉県警の共同捜査本部は、小泉容疑者が関与を認めている両事件の裏付けと最大の焦点である動機の解明を進めている。きっかけは「愛犬の死」と供述しているが、人生の軌跡をたどると、東京・秋葉原で6月に起きた17人殺傷事件で殺人罪などに問われた元派遣社員、加藤智大(ともひろ)被告(26)の姿と二重映しになる、と指摘する捜査員もいる。

 出頭前日の21日夜、小泉容疑者は自宅アパート近くの飲食チェーン店で、ギョーザとチャーハンを注文した。数百万円の借金を抱え、安売りのカップめんを買い込んでいた身には、最後のぜいたくだったのかもしれない。

 「埼玉で目つきが変わったようだ」。98年に今のアパートに転居してきた小泉容疑者のことを捜査員はこう表現した。

 約2年前、都内のコンピューター関連会社を解雇された際、「なんでおれをクビにするんだ」と憤った。8年前に始めたインターネット株取引は100回以上に及んだが、まとまった収入にはならず、生活は昼夜逆転した。部屋にこもり、長さ約1.5メートル、重さ約20キロのバールをバーベルがわりに、体を鍛えた。

 「携帯電話や交友関係を調べても仲間はいない」(捜査幹部)。そんな孤独の中で、ナイフを買い集め、襲撃計画を練った。約1カ月前、事件に使ったとされる柳刃包丁を買い、12日にたんすなど家財道具をリサイクル店に引き取らせた。

 そして17日夕、さいたま市南区の山口剛彦さん(66)宅、18日夕には東京都中野区の吉原健二さん(76)宅を襲ったとされる。

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 28日夜、山口県柳井市の小泉容疑者の実家。両親は、記者にアルバムを開いて見せた。いとこらと一緒に「シェー」のポーズをとる小学生の小泉容疑者。中学時代まではいつも笑顔で、誰からも好かれた。

 そんな息子が変わったと両親が感じたのは、佐賀大学で留年したころ。当時住んでいたアパートの大家から「息子さんが工事現場の人に『音がうるさい』としつこく文句を言う。なだめてほしい」と電話があった。以後、両親は居住地ごとに、大家を通じて息子の違う面を思い知らされる。

 社会人になり、30歳を過ぎて家業を継ぐために会社に勤めた広島市や山口県小郡町(現山口市)でも続いた。その度に出向いて頭を下げた。だが、息子が同席したことは一度もない。父親(77)は「いつも親から逃げている」と感じていた。

 ただ、大学中退後最初の就職先である東京のコンピューター関連会社にいた時期は違った。母親(70)の電話に「昨夜は2時まで残業した」と明るく話し、その間、2度の正月は帰省して両親に20万円を贈った。「普通に戻ったんだ」。2人は胸をなで下ろした。

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 取り調べに対して小泉容疑者は動機を、小学時代の74年4月、保健所に引き取りに行った飼い犬「チロ」が処分されたことで大きなショックを受けたと供述。警視庁は愛犬の殺処分が動機の根底にあるとの見方を強める。だが、そのことがなぜ今、両襲撃事件を起こす理由になるのか。注目されるのが、大学中退と会社を辞めさせられた体験だ。

 ある捜査幹部は、加藤被告を引き合いに「2人とも、いびつな自己顕示欲が事件に走らせた」とみる。一方、別の捜査幹部は事件の不気味さをこう語った。「秋葉原事件と一緒で社会通念上は理解できない。本人にとっては『きっかけ』でも、そこらにある石ころにつまずいたというようなレベルで意味がない。そんな人間が、同じような事件を起こすのが問題だ」

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 小泉容疑者が出頭直前の22日夕、実家に「送った」と電話した手紙は翌日夜届いた。両親は手紙を警察に任意提出する前に読んだ。なぜ事件を起こしたのか。理由が書かれているかもしれないとの期待は、完全に裏切られた。

 「両親へ」で始まる便せん5枚に手書きで書かれていたのは、「チロの仇(かたき)」のくだり以外には、自宅アパートについて「棚は入居時から壊れていた。修繕費を払う必要はない」との記述程度。あとは記憶に残らないほど、とりとめのない内容だった。

 両親の脳裏には、14年前、祖母の葬儀に帰郷した息子の記憶が残る。祖母の死を悲しみ、幼いおいに食事などを与える優しい姿。

 「なんであんなに変わったのか。身内や友達、それと他人とで態度が違う。二重人格なんでしょうか。全く理解できない」

 母親の嘆きが、捜査幹部の言葉と重なった。

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