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2008年11月30日(日) 19時38分

【被害者参加制度】今後の刑事裁判に与える影響は…産経新聞

 犯罪被害者やその遺族が法廷に入り検察官のそばで、被告人質問や求刑を行うことができる被害者参加制度が12月1日から導入される。これまで傍聴人や証人としてしか刑事裁判に参加できなかった被害者らにとって、救いになるとの評価がある一方、裁判が感情に流されてしまうとの懸念もある。来年5月に導入される裁判員制度とともに、これからの刑事裁判はどのように変わるのだろうか。

 「これまで無視されてきたことが現実になって感無量だ」と歓迎するのは、全国の犯罪被害者らでつくる「あすの会」代表幹事で、元日本弁護士連合会副会長の岡村勲さんだ。

 岡村さんは平成9年に妻を失った。山一証券と顧客との紛争処理で逆恨みされ、宅配業者を装って自宅を訪れた男に妻を刺殺された。遺族の立場で自分に降りかかったきた刑事裁判を経験し、「いかに被害者に権利がないか」を痛感したと振り返る。

 「被害者が求刑できることに意義がある。言っただけで救われるということもある」と岡村さんは話す。

 東京都多摩市の岩崎悦子さんの三男、元紀さんは14年、バイクに乗っていたところを飲酒運転の車に衝突され、約90メートル引きずられて死亡した。19歳だった。岩崎さんの怒りと悲しみは癒えることはない。

 「今も加害者を許せない。謝罪文らしい手紙が届いたが、読めば謝罪を受け入れたことになるのでそのまま突き返した」と明かす。「これまで法廷で遺族は傍聴人に過ぎなかった。参加して質問できれば納得できる。過去を思いださせる調書などを読むのは辛いが、大事なことなのです」

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 被害者支援には検察当局も前向きになり始めた。

 最高検は被害者参加制度の対象事件について、被害者らから要請があれば、初公判前に供述調書などの証拠の閲覧を認めるように全国の地・高検に通達した。「事件の真相を知りたいという要望に応えたい」(最高検幹部)という。

 被害者に意見陳述を認めた12年の刑事訴訟法改正にかかわった、ある法務省幹部は「当時も法廷に感情論を持ち込むのか、という批判があったが、今の公判をみると、杞憂(きゆう)だったことが分かる」と話す。

 しかし、検察幹部は「特に裁判員制度では、判断を大きくぶれさせる要素になりかねない」、別の法務省幹部は「言葉は悪いが、量刑の“相場”というものがある。無視はできず、感情に引きずられるわけにはいかない。法廷が単に鬱憤(うっぷん)を晴らす場にならなければいいが…」と懸念する。

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 「被害者の求刑は、裁判員裁判で執行猶予か実刑か、死刑か無期懲役か、という判断に迫られた際、インパクトが大きい」と話すのは、日弁連の刑事法制委員会事務局の山下幸夫弁護士。「これまでの刑事裁判で被害者が置き去りにされていたのは確かだが、被害者だけが突出し、感情的な裁判になるのはよくない」と話す。

 被害者は法廷で弁護士の協力を仰ぐことができ、資力に乏しければ、日本司法支援センター(法テラス)を通じて公費で国選弁護士がつけられる。山下弁護士は「弁護士が丁寧に説明すれば、行き過ぎた感情は抑えられる。裁判官と検察官、被告と被害者双方の弁護士、4者の協力が不可欠だろう」とみている。

 最高裁の竹崎博允長官は11月25日の就任の際、被害者参加制度導入後の刑事裁判について、「裁判は一方向からしか光が当たらないものであってはならない。法廷はさまざまな声を十分に受け止め、合理的で冷静に判断する場になる」と分析した。

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