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2008年11月30日(日) 08時03分

インドテロ完全制圧 印パ緊張 米戦略再考も産経新聞

 【ムンバイ=宮野弘之】インド同時テロの鎮圧作戦終了を受け、今後の焦点は犯行グループとパキスタンとのかかわりの有無に移った。仮に同国の3軍統合情報部(ISI)などの関与が明らかになったりすれば、インドが強硬姿勢に転じ、核武装する印パ両国間の緊張が再び高まるのは必至だ。パキスタンは、隣国アフガニスタンで米国が主導する国際テロ組織、アルカーイダ掃討作戦の中で重要な前線国家と位置付けられており、そのパキスタンの不安定化は米国の対テロ戦略の見直しをも迫りかねない。

 29日昼、現地のテレビを通じて、インド治安部隊の責任者が、タージマハルホテルに立てこもっていた武装グループを排除し、3日間に及ぶ鎮圧作戦が完全に終わったと述べると、市民には安堵(あんど)の表情が戻った。

 だが、地元メディアは、情報機関が今回のテロ情報を事前につかめず、治安部隊の投入も遅れたため、大惨事となったとして、政府の不手際を一斉に批判し、野党もシン政権のテロ対策を弱腰と非難している。

 断固たる姿勢を示すほかなくなったシン首相は28日に、ギラニ・パキスタン首相に初めてISI長官をインドに派遣するよう要請。パキスタン側はいったんは承諾したものの、同日夜になって長官より下位の高官を送ると知らせてきた。

 拘束された犯人たちは、パキスタンに拠点を置く過激派組織「ラシュカレトイバ」とのかかわりを自供したとも伝えられ、インド側は組織をつくったISIの関与を疑っており、長官派遣要請もその解明のためだった。だが、長官派遣撤回で、インドはパキスタンに不信感を募らせる結果となった。

 米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は29日に、「パキスタン政府の対応が遅れれば、インド軍がパキスタン国内にある武装勢力の拠点を攻撃する可能性もある」と報道している。

 そうした印パ関係悪化が、隣国アフガンで米軍主導の多国籍部隊が展開するアルカーイダ掃討作戦にどう波及してくるか。

 米国は、アフガンとパキスタンとの国境地帯に巣くう、アルカーイダとそれと連携するアフガンの旧支配勢力、タリバンなどの掃討に手を焼いている。掃討作戦を遂行するうえで、パキスタンの協力は不可欠だ。

 だが、印パ関係が悪化すれば、パキスタンの軍事的備えはインドに向けられ、テロ掃討に投入する軍事力は手薄になる恐れがある。

 米国の民間情報機関「ストラトフォー」は、米国とインドがパキスタン政府への圧力を強め過ぎれば、印パ両国が核で対峙(たいじ)するような事態になる可能性があると警告しており、米印両国政府に対し、パキスタンの現政府がテロ対策で断固とした対応を取れるよう協調することを提言している。

 オバマ次期米大統領もブッシュ現大統領と同様、アルカーイダ掃討作戦で印パ両国の協力を得ることが不可欠だとの立場を取る。しかし、今後の対応次第では、テロの拡散や核の脅威が現実のものとなってくる恐れもある。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081130-00000029-san-int