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2008年11月29日(土) 00時00分

【動き出す制度】(2)「自分なりに」高まる意識読売新聞

29万5027人に通知書

裁判員候補者に一斉に発送された封筒には、名簿記載通知書や調査票、裁判員制度のガイドブックなどが入っている

 28日午前9時すぎ、東京・銀座にある郵便事業会社支店の郵便物発着場。「裁判員候補者名簿記載通知書」が入った封筒の束が、次々と運び込まれた。封筒はここで地域ごとに分類され、各地の郵便局に運搬されていく。第1便は空路で、北海道と九州へ。発送作業は夕方まで続いた。

 「通知書が届いて不安を感じる国民もいると思うが、できるだけ解消していきたい」。立ち会った最高裁刑事局の平木正洋総括参事官(47)はそう語った。

 29日以降に通知書を手にするのは、来年の裁判員候補者計29万5027人。有権者352人に1人の割合だ。こうした数字に、裁判所の不安も見え隠れする。

 裁判員制度の対象事件は例年3000件前後で、1事件につき6人の裁判員が選ばれる。最高裁は補充裁判員になる人(1〜2人)、検察、弁護側が理由を示さずに除外できる人(最大で各4人)などの分を確保したうえで、裁判所に来ない人が大量に出る事態も想定し、事件ごとに呼び出す候補者の人数を50〜100人と多めに設定した。

 「候補者が多すぎるのではないか」という声もあるが、あるベテラン裁判官は「新しい制度だけに、何人の候補者が裁判所に来てくれるか分からない。候補者が足りなくなる事態だけは、どうしても避けたかった」と説明する。

 制度施行を半年後に控え、「低い」とされた国民の関心が高まりつつある。

 日本司法支援センター(法テラス)では、今春までは毎月数件〜50件だった裁判員制度に関する電話・メールがここに来て急増。新聞の折り込みに、制度を知らせる政府広報が入った翌日の11月17日には344件の問い合わせがあった。

 最近では、「証拠として悲惨な事件現場の写真を見た場合、心のケアはしてもらえるのか」といった具体的な相談も寄せられるようになった。

 自主的な勉強会も、各地で開かれている。

 10月29日夜、東京・荒川区のホテルの会議室。若手の繊維卸業者らでつくる東京日暮里繊維卸協同組合青年部が、東京地裁の浅川啓(ひらく)判事補(26)を講師に招いた。14人の参加者からは、「求刑より重い刑を科すことはできるのか」などの質問が45分間、途切れることなく続いた。「店を経営している方々だけに、辞退に関する質問が多いかと思ったが、前向きに考えていただいていると感じた」と浅川判事補は語る。

 同組合理事の新井健夫さん(44)は言う。「国民が参加することで、裁判の透明性は高まると思う。裁判員になったら店は休まざるを得ないが、どうにか調整して参加したい」

 人口約6750人の福島県泉崎村に暮らす主婦清水達子さん(62)は11月17日、村で初めて開かれた裁判員制度の説明会に参加した。候補者名簿に名前が載る村民は12人に過ぎないが、会場の公民館に集まった24人は、福島地検の望月克彦総務課長(55)の説明に耳を傾けた。

 清水さんはテレビドラマ以外、裁判は見たことがない。小さな村なので、裁判員に選ばれれば周囲に知れ渡らないか心配だし、「法律知識のない自分に人が裁けるのか」という思いもある。ただ、説明を聞き、「自分なりの意見を言えばいいのかな」と、肩の力が少し抜けた気もした。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/20081128-033595/fe_081129_03.htm