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2008年11月29日(土) 00時00分

<下>量刑判断に2年の差読売新聞

人生経験 すり合わせ
裁判員席から見た札幌地裁5号法廷。来年の制度開始後、この席に座る人は何を感じるのだろうか=山本高裕撮影

 裁判員として迷ったのは、有罪か無罪かを決めることよりも、量刑の判断だった。札幌地裁で行われた模擬裁判では、裁判員として参加した4グループの結論はいずれも有罪だったものの、判決は「懲役13年」から「懲役11年」とばらつきが出た。 (酒井麻里子)

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 模擬裁判を終えて、裁判官と裁判員が参加した「座談会」では、裁判に参加した他のグループの評議の様子などを講評した。

 驚いたのは、他のグループが、私たちのグループよりはるかに重い量刑を検討していたことだった。あるグループでは、「人の命が失われたことは大きい」として、検察側の求刑より重い「18年」を主張する声が相次いだという。私たちのグループと同じ議論を経て有罪と決めたのに、なぜ量刑が異なったのか。

 グループに加わった男性は、「自分の家族が殺された時のことを考えた」と語った。女性は「中立的な立場で考えようとした」と裁判員としての苦悩を語ったが、何より「命の重さ」を重視したという。結果的に、このグループは「13年」に落ち着いたが、それでも私たちと比べ、量刑は2年も重くなった。

 札幌地裁によると、過去に全国の裁判所で審理した同様の事件で、最も多かった判決は「懲役10〜9年」。全体の3分の1を占める。

 平均からみれば、私たちが出した「11年」もやや重い量刑ということになる。しかし、法律家ではない一般市民が加わった4グループがいずれも有罪と判断し、量刑も2年の範囲内でそろったことには驚いた。

 評議を終えた裁判員からは、「非常に難しい。自信を持って判断が下せるのだろうか」「刑が正しかったか、今でも悩む」とする声もあった。しかし、「様々な人生経験をした人の意見が刑に反映される。いい制度だ」と好意的な意見が、何よりも印象的に残った。

 【量刑】 刑法で決められた「法定刑」の範囲内で、被告に科す刑の重さ。これまでの刑事裁判では、裁判官が、犯行の態様、被害者感情のほか、被告の反省の有無や更生の可能性などの「情状」を考慮して決めており、検察側の求刑より2割程度軽くなることが多い。

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 『裁判官の重み増大』

 刑事裁判に「市民感覚」を入れることが、裁判員制度の最大の目的だろう。過去の模擬裁判でも、参加した裁判官は「我々とは違った視点で議論し、非常に興味深い」と口をそろえ、新制度が司法を身近な存在にするきっかけとなることは間違いない。

 しかし、裁判員は法律の「素人」。評議の場で他人の意見が異なった場合、最後まで自分の考えを貫くことは難しいかもしれない。評議の行方も、裁判長の進行で結論が変わることもあり得る。模擬裁判に参加して感じたのは、一般市民の参加で、裁判官の存在が小さくなるどころか、むしろ大きくなっているということだった。

 残された時間はあと半年。多くの人が模擬裁判で裁判員を体験することで、より良い制度にできればと感じた。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/hokkaido/feature/hokkaido1227770797408_02/news/20081129-OYT8T00271.htm