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2008年11月28日(金) 15時59分

【あなたが裁く 迫る裁判員制度】最高裁29万5000人に通知書産経新聞

 ■選ばれたらどう対応 有給休暇?取り組みさまざま

 来年5月の裁判員制度開始に向け、最高裁は28日、各地裁の裁判員候補者名簿に載ったことを知らせる通知書を全国の約29万5000人に一括発送した。通知書が届くのは全国平均で352人に1人。早い地域では29日に到着する見込みで、裁判員選任に備えた準備作業が本格化する。だが社会人の場合、選任されれば仕事を休まざるを得ないのが現実。裁判員の職務に必要な休暇をとることは法律で保障されているが、現段階では人繰りや休暇を有給扱いにするかを含め、取り組みは職場によって千差万別となっているようだ。

  ■写真で確認■ この封筒が届いたら裁判員候補者です

 ◆企業悩める制度

 「大事な従業員を手放すのは正直、痛いなあという感じ」。人工衛星「まいど1号」開発で知られる大阪府東大阪市の航空機部品製造、アオキの青木豊彦社長(63)はため息をついた。

 人員に余裕のない中小企業では、従業員が裁判員となり職場を離れるのは大きな痛手。具体的な対応策を決めかねている企業も多い。同市内のねじ部品製造、ケーエム精工の北井敬人社長(46)も「社会あっての会社なので、従業員を送り出すのはやむを得ないのだが…」と話す。

 これに対し、大阪ガス(大阪市)はすでに昨年7月、裁判員に選ばれた場合に通常の有給休暇とは別に有給扱いで休暇を取得できる制度を創設。関西を代表する大手メーカー、パナソニック(大阪府門真市)とシャープ(大阪市)も今春、同様の制度を導入した。

 一方、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを運営するユー・エス・ジェイ(大阪市)では、正社員やアルバイトだけでなく、その配偶者が裁判員になった場合も特別有給休暇を取得できる。グレン・ガンペル社長が陪審制の本場・米国の弁護士資格を持っていることも影響しているというが、「職場で働くだけでなく、従業員が裁判員として地域に貢献する機会を保障するのも、企業の務めと考えた」(同社広報)という。

 ◆人事院規則改正

 裁判員選任の可能性があるのは、公務員も同じ。国家公務員の場合、有給の「特別休暇」が取れるように人事院規則が改正された。

 総務省はこれを受け、地方公務員も国家公務員に準じる扱いとするよう各自治体に要請。京都府や和歌山県などは人事規則をすでに改正したが、大阪市は現在、改正を検討中。大阪府は来年2月議会に改正案を提出する予定だという。

 ただし公務員であっても、教員の場合は事情が異なるとの指摘も。府教育委員会教職員企画課は「担任が裁判員に選ばれ、学級運営から一時離れるとなると、代わりの教員をすぐに探すのは難しい」。府南部の公立中学の30代の男性教諭も「障害を持った子や不登校の児童生徒の場合、1人の教員が指導していくことが大切。休暇制度を整えればいいという問題ではない」と話した。

 ◆広報活動に本腰

 一方、裁判員制度の当事者である法曹三者は実務的な準備もさることながら、市民への広報活動に本腰を入れ始めている。

 大阪地裁は裁判員裁判用に完成した新法廷を使って、市民への説明会を月1回実施。裁判官がビデオやクイズで制度について解説し、市民の疑問や不安に直接答えている。

 検察庁も「全員が広報官」という意識で、検事や事務官が企業や学校などへ出向く出張説明会を開催。大阪地検ではこの1年半で1000件を超え、幹部は「特に主婦層の関心が高く、家庭における広報官になってもらっている」と手応えを感じているという。

 大阪弁護士会も学校や地域、企業から依頼を受けて月数回、弁護士を講師として派遣。さらに裁判員裁判に対応できる弁護士を容疑者段階から派遣できるように、300人の特別名簿の作成を急いでいる。

                   ◇

【裁判員候補者への通知書と調査票などの要旨】

 28日に最高裁が発送した「裁判員候補者名簿への記載のお知らせ」「調査票」「調査票の回答要領」の要旨は次の通り。

 【裁判員候補者名簿への記載のお知らせ】

 あなたは抽選の結果に基づいて、当裁判所の裁判員候補者名簿に記載されましたので、お知らせいたします。現段階では名簿に記載されただけであり裁判所にお越しいただく必要はありません。

 今後、この名簿をもとに実際の事件ごとに裁判員候補者を選んだ上で、当裁判所においてその候補者の中から裁判員を選ぶ手続きを行います。あなたが具体的な事件の裁判員候補者として選ばれて、裁判員を選ぶ手続きのため、当裁判所にお越しいただく必要が生じた場合には、別途事前にお知らせいたします。

 【調査票】

 この調査票により辞退の希望をされた場合でも、必ず辞退が認められるわけではありません。

 1 裁判員になることができない場合について

 あなたの職業が次のいずれかに当てはまる場合には、裁判員になることができません。

 ◆国会議員、国の行政機関の幹部職員等

 ◆司法関係者、法律専門家等のうち次の人

 裁判官や裁判官であった人、検察官や検察官であった人、弁護士や弁護士であった人、弁理士、司法書士、公証人、司法警察職員としての職務を行う人、裁判所職員(非常勤除く)、法務省職員(同)、国家公安委員会委員や都道府県公安委員会委員、警察職員(同)、判事・判事補・検事・弁護士となる資格を有する人、大学・大学院の法律学の教授や准教授、司法修習生

 ◆その他次の人

 都道府県知事、市町村(特別区含む)の長、自衛官

 2 裁判員を辞退できる場合について

 次の(1)〜(4)のいずれかに当てはまる場合には、1年間を通じて辞退することができます。辞退を申し立てる場合には当てはまる番号をマークしてください。(4)に当てはまる場合には具体的な事情も記載してください。

 (1)平成21年5月21日現在、70歳以上である

 (2)平成21年の1年間を通じ、学校の学生または生徒である

 (3)平成16年12月31日以後、検察審査員または補充員の職にあった

 (4)平成21年の1年間を通じ、重い病気またはケガにより裁判に参加することが難しい

 3 裁判員になることが特にむずかしい特定の月がある場合について

 あなたが次の(1)〜(6)のいずれかの事情により、月の大半にわたって裁判員になることが特にむずかしい特定の月がある場合、2カ月を上限にあらかじめ辞退を申し立てることができます。辞退を申し立てた月であっても候補者として呼び出されることが全くないわけではありません。その際にはあらためて「質問票」をお送りしますので、再度辞退の申し立てについて回答していただくことになります。

 (1)重い病気・ケガ

 (2)介護など

 (3)養育

 (4)仕事上の都合(仕事における重要な用務で、自分が処理しなければ非常に大きな損害が生じるおそれがある)

 (5)社会生活上の重要な用務(親族の冠婚葬祭など他の期日に行うことができないものがある)

 (6)出産の予定がある

 ▽(4)にマークされた方

 仕事をほかの人に代わってもらうことがむずかしい事情として当てはまるものをマークしてください。(複数回答可)

 ・ほぼ1人、少人数で事業を運営している

 ・多人数で業務を行っているが、仕事を引き継げる状況にない

 ・ほぼ毎日のように締め切り、納期、収穫時期、出荷時期などがある

 ・ほぼ毎日のように顧客訪問や対応などをする必要がある

 ・自分の持つ資格が求められている

 ・自分の持つ高度な専門性や特殊技能が求められている

 ・重要な判断や決裁などを行う立場にある

 ・その他

 裁判に参加するため仕事を離れることになった場合に生じる非常に大きな損害として、当てはまるものをマークしてください。(複数回答可)

 ・売り上げ・利益が減る

 ・注文を受けられなくなる

 ・顧客、取引先を失う

 ・顧客、取引先に損害を与える

 ・業務が停止する

 ・顧客などから補償を請求される

 ・自分の収入が大幅に減る、または職を失う

 ・その他

 ▽(5)にマークされた方

 社会生活上の重要な用務をマークしてください。(複数回答可)

 ・冠婚葬祭

 ・入学試験、資格試験、就職活動など

 ・行事や社会的奉仕活動など

 ・その他

 ▽(1)〜(6)にマークされた方全員

 理由をできるだけくわしく記載してください。

 【調査票の回答要領】

 調査票の1に当てはまる場合や2(2)、(4)の場合に当てはまるとして辞退を申し立てる場合は、裏付け資料(学生証、身分証明書、診断書、障害者手帳など)の写しを提出してください。

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