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2008年11月27日(木) 11時00分

裁判員制度:札幌地裁で模擬裁判 影響大きい裁判官発言 /北海道毎日新聞

 ◇裁判員ら4班で審理
 国民が刑事裁判に参加する「裁判員制度」開始を約半年後に控え、札幌地裁は26日、裁判官3人と裁判員6人からなる「裁判チーム」を4班そろえ、同じ事件を並行審理して結論を比較する模擬裁判を実施した。有罪か無罪かが争われた事件だったが、結果は全4班とも有罪。検察側が懲役15年を求刑した量刑も2、4班が懲役11年、1班が懲役13年と大差なかったが、結論まで審理した3班とも量刑が裁判官の多数あるいは同数意見と同じになり、評議における裁判官の発言力の大きさが浮き彫りとなった。【芳賀竜也】
 裁判官と裁判員は法廷での審理のほかに、非公開の「評議」の場で意見を出し合う。裁判長が「議長役」を務め、検察側と弁護側主張の争点に沿って証拠書類や法廷での証言を検討し事実を認定。議論が出尽くしたところで、まずは有罪か無罪かを判断する。有罪の場合、刑の長さ「量刑」を決める。判断が分かれた際、基本的には多数決で過半数を占めた意見を採用。多数意見が過半数に達しなかった時は、1段階軽い刑の人数も加えて過半数になれば、その量刑が採用される。
 今回の模擬裁判は本番同様のルールで行われた。裁判員の多数意見は裁判官を加えても過半数に至らず各班とも採用されなかった。裁判員の意見は判決よりも重い傾向もみられた。2班の男性は「量刑は難しく、被告の人生を決める確固たる自信がない。実際の裁判になったら、裁判官の意見に合わせてしまうかもしれない」と不安を打ち明ける。3班の女性も「声の大きい人や話の上手な人、経験豊かな裁判官の意見に頼ってしまう。(裁判員制度は)気が重いなあと思った」と振り返った。
 自らの心境に置き換えて量刑を判断する声も。1班の男性は「自分が殺された時、家内がどう考えるか。死刑にしてくれと言うに違いない」と話し、議論の途中では懲役18年と主張していた。
 検察審査員の経験がある年配男性は「裁判官は頭を使っていてすごいなあ」とつぶやいた。一般的な市民の本音だろう。裁判員制度開始まで約半年。裁判官と裁判員が同じ立場で意見を出し合う土俵作りが急務だ。
 ◇難しい量刑判断
 模擬裁判に4班の裁判員役として参加した実感は「難しい」の一言だ。最も困難なのは量刑の判断。班の結論は懲役11年となったが、目安は検察側が示した懲役15年の求刑と、裁判官から手渡された同種事件の量刑分布表のみ。参加者からは「分布表に引きずられる」との声もあった。
 検察側、弁護側双方が主張の要点をまとめた資料を配布するなど、分かりやすさに重点を置いた取り組みが目立ったが、証人尋問のやり取りなどはメモするしかなく、「誰が何と言っていたのか分からなくなる」との指摘も。事実認定が裁判官の意見に影響される恐れもあり、法廷の質疑応答を簡単なメモにして裁判員に配る対策なども必要だ。
 各班の結論に大差はなかったが、裁判員制度には「判決にばらつきが出るのではないか」との不安も残る。ある裁判官は「さまざまな背景を抱えた国民の意見を裁判に生かせる」と利点を強調したが、来年5月21日の制度開始まで検討を重ね、より不公平感のない制度運営となるよう期待したい。【大谷津統一】
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 ◇起訴事実
 スナック「サイバーン」を経営する山田太郎被告(37)は6月10日午後11時ごろ、同スナックで共同経営者の田中次郎さん(当時35歳)の胸を殺意をもって包丁(刃渡り約20センチ)で突き刺し出血性ショックで死亡させた=殺人罪。
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 ◇模擬裁判の主な争点◇
 ◆被告は自分の意思で刺したか
検察側 包丁を振り下ろし15センチの傷を負わせており、意図的
弁護側 もみ合いで誤って刺さった。検察側証人も刺される瞬間を目撃せず
 ◆殺意があったか
検察側 普段から被害者に抱いていた不満が募り「ぶっ殺すぞ」と怒鳴って攻撃した
弁護側 「ぶっ殺す」とは言っていない。被害者に怒鳴られて怖くなり、包丁で脅しただけ
 ◆意見
検察側 動機は短絡的で身勝手。懲役15年求刑
弁護側 犯罪の証明がなく、無罪
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 ◇各班の量刑評決比較◇
      1班      2班        3班      4班
裁判官 *13年(2) *11年(2)    15年(1)  12年(1)
     12年(1)  12年(1) 12〜15年(1) *11年(1)
                       12年(1)  10年(1)
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裁判員  15年(4)  12年(3)    15年(2)  12年(3)
    *13年(1) *11年(2)    14年(1)  10年(2)
     12年(1)  10年(1)    13年(1) *11年(1)
                    12〜15年(1)
                       10年(1)
 ※年数はいずれも懲役。( )数字は人数、*印は各班の評決(結論)。3班は結論出ず

11月27日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081127-00000005-mailo-hok