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2008年11月26日(水) 00時00分

(下)無音・無振動穴掘り作業読売新聞

「うるさい基礎工事」今は昔
見学会で工事の説明を受ける町会長ら(中央がハイドロフレーズ掘削機、右がスーパーケリー掘削機)

 週末の東京スカイツリー建設現場周辺には、カメラを手にした見物客が続々訪れている。いまのところ、カメラに納まるのは林立する重機だけ。その重機群がツリーの根っこを造っていく手順を見てみよう。

 ツリーの基礎となる「壁杭(くい)」工事ではまず、「スーパーケリー掘削機」が登場して、深さ約10メートルの穴を掘る。クレーンでおもちゃをつかみ取るゲームのように、アームの先端に開閉する二つのバケットが付けられ、1度に約2立方メートルもの土砂をつかみ取っていく。

 次に、「ハイドロフレーズ掘削機」の出番が来る。これはワイヤにつり下げた回転式のカッターを地中に下ろし、土砂を削り取っていく。ツリーの地中の支持層(硬い頑丈な地盤)は地下約30メートルにあるが、そこを地下50メートルまで掘り進める。

 「その深さに杭を作ることで、十分な強度が確保される」。大林組の田渕成明・作業所長はそう説明する。

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 穴掘り作業なのに、削岩機のように派手な騒音はない。それには工夫があった。掘削作業の穴の中には、安定液と呼ばれる液体が満たされているのだ。

 田渕所長は「ただ掘っていくと穴が崩れるので、安定液を入れ、液の力で崩壊を防ぐ」と話す。安定液は粘土や食品添加物で出来ていて、無害だという。削り取った土砂は、ポンプで安定液ごとくみ上げる。

 昔の基礎工事は、地中にガンガン杭を打ち込んでいた。しかし、1950年代、建設現場の騒音、振動公害が社会問題化して、壁杭工法や安定液のような工夫が進んだ。大林組は原則、夜6時にスカイツリーの工事を終えているが、深部の掘削作業は夜10時まで続けている。無音、無振動工法だけに、苦情も「ほとんどない」という。

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 たて穴を掘り終わったら、「ナックル・ウォール施工掘削機」を穴の底近くまで下ろし、カッターを水平に回転させて内壁を一部、直径約2メートルの円形に掘り広げる。この部分はコンクリートを流し込めば、杭の両側に飛び出た「節」になる。

 これで穴は完成。次は穴全体を「型枠」として、コンクリートを流し込み、壁杭を造っていく作業に入る。

 穴には、重さ約60トンの鉄筋かごを入れて、生コンを流し込む。生コンは地上から鋼管を通して、穴の底から順に約5時間かけて、ゆっくりと流し込んでいく。一つの杭に使う生コンは約250立方メートルで、ミキサー車約60台分。乾いて1本の杭が完成するまでに、約4週間かかる。

 この杭を77本構築すれば、大きな壁杭になり、スカイツリーの基礎工事は完了する。

 田渕所長は「77本のうち、ほぼ9割の杭が完成した。12月上旬には地中連続壁杭の工事は終わる見通し」と話している。

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 11月2日。地元のリクエストで、町会長らを招いた初めての現場見学会が開かれた。町会長らは現場を歩きながら、林立する重機を興味深げに見上げた。

 「来年の春先から初夏にかけて、スカイツリーの鉄骨が高さ50メートルまで積み上がります。春先からツリーが地上に、その雄姿をお見せできるはずです」

 現場事務所で、田渕所長が説明しながらスクリーンにイメージ画像を映し出すと、会場では「おー」と声が漏れた。来年のいまごろ、ツリーは200メートルの高さまで伸びている予定だ。

 建設地にほど近い墨田区押上3に住む柳原幸之助さん(82)は、重機群を撮った写真を絵はがきにした。スカイツリーの成長は何よりも楽しみ。「段階的に子供の成長のように写真を撮って、記録していきたい」と声を弾ませる。

 映画「ALWAYS 三丁目の夕日」では、建設中の東京タワーが大事な役を務めた。スカイツリーもまた、下町の未来と夢を担いながら、根を張って、成長していくことだろう。

 (石井正博が担当しました)

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/feature/tokyo231227458486992_02/news/20081126-OYT8T00124.htm