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2008年11月26日(水) 18時14分

【元女優に判決】(3完)裁判長「あなた方の生活、理解しがたい」産経新聞

 《弁護側は木村衣里被告が無罪だとする柱の一つとして、藤家英樹さんがSM行為の中で自らをナイフで傷つけた可能性を主張してきた。秋葉康弘裁判長は藤家さんの自傷行為を否定した理由を述べ始めた》

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 裁判長「被害者の負傷部位に本件の果物ナイフが6センチも刺さるという事態は、人が刺す意思を持ってしっかりナイフを握りしめたいなければ起こりえない。第三者の関与は否定できるから、本件でナイフを握りしめていたのは被告か被害者となる」

 裁判長「しかし、被害者が左腕を回して自傷行為を行うことは不可能ではないが、左腕をかなり窮屈に回すことになり、自傷行為としては不自然。しかも傷口に乱れがなく、非常に綺麗に切れていること、刺さった角度と抜けた角度がほぼ同じであることからすると、自傷行為による可能性はないといえる」

 《被害者の自傷行為の可能性を否定した上で、裁判長は衣里被告が刺したと結論付けた。しかし、衣里被告がなぜ刺したのか。裁判長はその理由について推論する》

 裁判長「被害者が自ら自傷行為に及んだのではないにしても、被害者がナイフを持ち出し、嫌がる被告に対して被害者自身を傷付けるよう要求し、拒みきれなくなった被告が被害者を刺すに及んだ可能性は十分に考えられる」

 《藤家さんが傷付けることを求め、衣里被告が刺した−。裁判所は「犯行時に何が起きたのか」の答えとして、こうした可能性に言及した。検察側が主張した『SM行為の行き過ぎ』という主張を取り入れつつ、衣里被告の行動に主体性がなかったことをにじませた形だ。このことが、検察側の求刑通りの判決とならなかったことに影響しているのだろうか》

 《弁護側は『藤家さんの暴力により、事件当時の衣里被告は意識がもうろうとしていた可能性が高い』と主張し、責任能力を争った。裁判長は、衣里被告を『性嗜好障害、情緒不安定性パーソナリティ障害だが、犯行当時は、脳しんとう後のせん妄状態だったが精神病の状態にはなかった』とする鑑定医の判断を『信用できる』とした。その理由について細かく論じる》

 裁判長「性嗜好障害は苦痛の授受などを含む性的行動を反復するなどの特徴を有し、情緒不安定性パーソナリティ障害は非常に不安定な感情、気分、行動等の特徴を有するが、いずれも善悪の判断能力やその判断に従って行動する能力に影響を及ぼすものではない」

 《続いては脳しんとうが犯行に与えた影響についての判断だ。鑑定によれば、脳しんとう後のせん妄状態は、意識の清明度が著しく変化し、動揺するのが特徴で、意識レベルに問題があれば周囲とは無関係に無目的な行動を取り、動作もふらついたものになるという》

 裁判長「(傷口がまっすぐで、しっかりナイフを持って刺したものと推測できることから)被告が犯行前後に脳しんとう後のせん妄状態にあったため記憶がないとしても、当時の意識は清明で、他に責任能力に影響を与える精神障害がなかったのであるから、本件犯行時の責任能力には問題がなかった」

 《最後は量刑についての説明だ。裁判長は「SM」という言葉は濁しつつも、2人の特殊な関係を論じる》

 「被告と被害者は長年にわたる交際を通じて互いに求め合う男女関係にあったとはいえ、被害者を死亡させる危険性の高い態様の障害行為に及び、命を奪った結果は重大である。犯行は被害者の激しい暴行を不器用な愛情表現として受け入れ続け、そのような被害者との関係を根本的に変えようとしてこなかったという男女関係に起因しており、被告が犯行に及んだことは同情できない。被害者から刺すように強く要求され、被告が拒むことができなかった可能性が高かったとしても、実刑は免れない」

 《判決文が読み終わり、裁判長は説諭を始めた》

 裁判長「あなたと被害者の生活のありようは多くの人からすると理解しがたいものだったと思います。そのことの原因、それはあなたの精神的な未熟さと言ってもいいかもしれない。不安定さに問題があったのだと思う。これから生きていく中で、向き合っていかなければならない。社会で生活していくためにはたくさんの人と関係していかなければならない。不安定さを自覚して向き合っていかなければ思いがけない事態を引き起こしかねない。刑に服して責任を果たし、生活していってほしいと思います」

 《裁判長の言葉に、それまでまっすぐ前を見つめ身動きをしなかった衣里被告が、小さい声で「はい」とうなづいた。裁判長は閉廷を宣言し、傍聴人に退廷を命じた。衣里被告は裁判長を見つめ着席したままだった》

 《2日間の集中審理の後、3回目の期日で判決が言い渡されたこの裁判。来年5月に始まる裁判員制度を意識し、公判前整理手続きで争点を絞って迅速な裁判進行が図られた。だが、弁護側が根底から起訴事実を否認する「がっぷり四つ」の争いで、事実認定のための材料が出尽くしたかどうか疑問が残る展開となったのも事実だ。もしあなたが裁判員だったとしたら、今回の判決と同じ結論を導き出しただろうか》

        =(完)

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