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2008年11月25日(火) 11時01分

支局長だより:裁判員と量刑判断=澤晴夫・小田原支局長 /神奈川毎日新聞

 裁判官と一緒に審理し判決を決める評議もする「裁判員制度」が来年5月21日にスタートする。裁判員裁判が開かれるのは県庁所在地などにある地裁50カ所と10カ所の地裁支部。横浜地裁小田原支部はその一つだ。
 スタートを前に小田原支部で3日間にわたり模擬裁判が開かれた。選任された裁判員6人と裁判官3人が審理するのは、新聞記事として大きく取り扱われることの多い殺人や、強盗致死傷、身代金目的誘拐といった重大事件だ。
 模擬裁判は34歳の女が起訴されたという想定の殺人事件で「殺意があったのか」「正当防衛か過剰防衛か」が争点になった。一連の取材を通して、裁判員に選ばれた人たちの「他人の人生を左右するかもしれない」というプレッシャーを感じた。
 記者として駆け出しの新潟支局時代、司法記者クラブを担当した。数多い刑事裁判を取材した体験から、裁判に全くかかわったことのない人や裁判の知識がない人たちが証拠や証言を基に「有罪か無罪か」「有罪なら懲役何年の量刑にするか」を判断するのは、やはり重圧だと思う。
 模擬裁判では、裁判員が意見を述べやすいように裁判官が十分な配慮をしていることはうかがえた。しかし場合によっては多数決で量刑を決める場面も多いに違いない。判決を9人が話し合う評議では「被害者感情も考えて」「(被告が)34歳の女性なら、懲役7年でも十分に生活を立て直すことができる」といった興味深い意見もあった。
 量刑判断の前提として全員が一致して「殺意があった」と認定。裁判官が被告にとって有利、不利な事情を説明した後「懲役7年が相当」と結論した。さまざまな意見が飛び交った評議を聞いていると、やはり量刑を判断するのは容易ではないと、つくづく思った。
 小田原支部では12月22日に殺人事件の判決公判がある。母親と弟を殺害したとして無職の男が起訴され、検察側は有期刑の上限の懲役30年を求刑した。責任能力の有無・程度が争点で、精神鑑定も2度行われた。裁判員ならば、どんな判決を下すだろうか。
 小田原支部によると「裁判員候補者名簿」に記載されるのは小田原から清川村までの6市12町村で2176人。最も多い平塚市で462人、小田原市が356人で、人口の少ない真鶴町だと17人ということになるそうだ。
 裁判員制度には反対だという人もいる。制度そのものの是非を論じるつもりはないが、もし自分が裁判員に選ばれた時、果たして妥当な判断ができるかどうか。
 正直言って自信がない。

11月25日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081125-00000012-mailo-l14