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2008年11月24日(月) 08時03分

元厚生次官ら連続殺傷 やまぬ行政対象暴力産経新聞

 元厚生次官ら連続殺傷事件に絡んで逮捕された小泉毅容疑者(46)は動機を「保健所にペットを殺されて腹が立った」と供述した。行政への不満から職員が被害にあう「行政対象暴力」が側面として浮かび上がってきたが、退官して年月がたつ役人、さらに家族にもやいばが向かった点で異例の事件といえる。しかし、この手の事件は、勘違いや一方的な思いこみによる理不尽な動機が多く、犯行も陰湿化し、エスカレートする傾向にある。

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 ■逆恨み

 平成10、11年に松尾邦弘最高検検事(当時)と但木敬一法務省官房長(同)宅にナイフなどが送りつけられた。通信傍受法に反対する勢力の犯行との見方が浮上したが、実際に容疑者を捕まえてみれば、司法試験に落ちた男による腹いせの犯行だった。

 元厚生次官らの連続殺傷事件では「年金のプロ」といわれた官僚トップ経験者が相次いで標的となったことなどから、警察当局もテロの可能性を視野に入れたが、容疑者の逮捕によって、法務・検察当局の幹部が狙われたのと同じように、事件は違った展開を見せ始めている。

 捜査関係者は「行政対象暴力は、逆恨みからくる身勝手な犯行も多く、犯罪は陰湿化する傾向にある」と指摘する。小泉容疑者が供述であげた「保健所」は、都道府県や政令市などが設置しており、厚労省は設置主体ではない。

 警察庁の統計によると、昨年、全国の警察に寄せられた行政対象暴力の相談件数は2536件で、統計が残る7年以降で最多となった。14年以降は、2000件を超える状況が続いている。

 昨年4月、長崎市の伊藤一長市長(当時)が銃撃され死亡した事件は暴力団関係者による犯行だったが、暴力団などの反社会勢力が資金獲得の手段としているケースも目立ち、組織のトップや幹部職員が凶悪事件に巻き込まれることも多い。

 13年秋、廃棄物収集運搬の許可をめぐる逆恨みから殺害された栃木県鹿沼市の環境対策部参事、小佐々守さん=当時(57)=の妻、洌子(きよこ)さんは、「身勝手な自己主張を繰り返す犯人が多いが、どんな理由であろうと、人の命を奪う行為を許してはいけない」と、行政対象暴力に対し、社会全体が毅然(きぜん)とした態度で臨むべきだと訴えている。

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 ■身勝手

 国民生活に身近な行政分野を所管する厚生労働省には日ごろから、多くの意見、問い合わせ、苦情、抗議、要望などが寄せられている。中には、脅しめいたものや、自分勝手な解釈による身勝手な要求もある。

 今回の事件に関しても、厚労省は狂犬病予防法を所管するものの、殺処分を実際に行う保健所の設置主体ではないことなどから、「なぜ、動物の殺処分を理由に元次官が狙われたのか分からない」(大臣官房幹部)と、容疑者の勝手な思い込みに戸惑いの声も出ている。

 とりわけ、年金、後期高齢者医療、薬害など、厚労省の施策が社会的な批判を浴びたこの1年ほどは、各担当部局に多くの批判や抗議が殺到した。

 電話だけでなく、直接、厚労省まで足を運んで自分の意見を伝える人も少なくない。挙動不審な人が抗議などに訪れることも多く、霞が関の本庁舎前では、警備員と訪問者が「庁舎に入れろ」「入れない」でもめている光景を見ることも珍しくない。

 半年ほど前には、後期高齢者医療の制度設計に携わった職員を名指しし、「家族に危害を加える」といった電話が執拗(しつよう)にかかってきたこともある。職員の所属する職場では一時期、本人に登庁を控えさせるなどの安全策を取らざるを得ない状況に発展した。

 また4月には、男の声で庁舎の爆破を予告する電話もかかり、警視庁に通報したり、庁舎内に不審物がないかを点検する騒ぎになった。

 同省幹部は「国民に身近な行政課題を多く抱えているから、多くの批判や意見を受けることは当然だが、勝手な思いこみに基づいたような脅しや暴力は許せない」と話している。

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