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2008年11月24日(月) 06時03分

将棋界にニューヒロイン!!16歳女子高生棋士・里見2段初タイトル…「倉敷藤花」奪取スポーツ報知

将棋の倉敷藤花戦で初タイトルを獲得した里見香奈女流2段

 新女王は16歳—。女流将棋の「第16期大山名人杯倉敷藤花戦」3番勝負の第2局が23日、岡山県倉敷市の倉敷市芸文館ホールで行われ、先手の里見香奈女流2段(16)が清水市代倉敷藤花(39)を133手で破り、初の公式タイトルに輝いた。16歳8か月でのタイトル獲得は女流棋士史上3番目の若さ。12月3日には、アルゼ杯女流名人位戦(報知新聞社主催)挑戦者の座を懸けて再び清水と争うが、ニューヒロインの勢いは止まりそうにない。

 平常心を保つため、いつもの制服姿で対局に臨んだ里見。初タイトル獲得という大舞台にもプレッシャーはない。「途中は攻めあぐねたけど」と振り返ったが、得意の中飛車から角交換すると終始、落ち着いた将棋をのびのび展開。キャッチフレーズの「出雲のイナズマ」通り終盤の剛腕で一気に攻めきった。「今日は一日楽しい将棋ができたと思います。尊敬する清水さんとの対局というだけでうれしいのに、勝ててうれしい」

 高くて遠い壁。今回の挑戦まで清水との対戦成績は0勝4敗とまったく歯が立たなかった。昨年9月の倉敷藤花挑戦者決定戦でも清水に完敗を喫し号泣。それでも「将棋がさらに好きになった」と気持ちを切り替え飛躍につなげた。

里見(右)は、約15キロもある優勝トロフィーを贈られ笑顔(左は伊東香織・倉敷市長)

 「家族や周りの人にお礼が言いたいです」という里見。会場には、地元の島根県出雲市から家族が総出で駆けつけた。母親の治美さんは「見ている私の方がドキドキしちゃって…帰ったら、すき焼きでもなんでも娘の好きなものでお祝いしたいと思います」と目を潤ませて喜んだ。

 観戦した女流棋士会の谷川治恵会長は「キラキラした星のような存在の里見さんが活躍することで、女流棋士界もますます面白くなりそう」と新ヒロイン出現を頼もしそうに見守る。

 次のターゲットは、プロになる前からの夢という女流名人。12月3日の挑戦者決定戦の最終局では、またも清水が相手になる。「タイトル保持者という実感は、まだわかないのですが…とにかく気負わずに、このまま勝ち進んでいきたい。見ていて楽しい将棋を指したい」とあくまで自然体。夢が現実になるのもそう遠くはない。

 プロテニスプレーヤーの錦織圭とは同郷で、プロゴルファーの石川遼とは同学年になる。そんな同世代の活躍に「刺激を受ける」と話す。島根の県立進学校に通う現役女子高生。地元に帰ったら期末テストが待っているという。

 [里見 香奈(さとみ・かな)あらかると]
  ☆生まれ 1992年3月2日、島根県出雲市。
  ☆将棋 父、兄の影響で6歳から始める。小5でアマ女王戦で優勝し、翌2003年に育成会入会。04年10月に歴代4位の12歳6か月で女流棋士に。好きな駒は香車。
  ☆戦績 07年女流初段、今年9月に倉敷藤花の挑戦を決め女流2段に昇段。今期17戦16勝1敗。
  ☆趣味 中学時代は卓球部に所属。今は筋トレが日課などスポーツ好き。昔のおもしろいマンガを見つけて読むこと。
  ☆現役女子高生 進学校の島根県立大社高校に通う。女優の江角マキコ、歌手の竹内まりやも出身。得意科目は数学。
  ☆職業病 どんなところでも正座してしまうこと。
  ☆制服 対局時はいつも学校の制服を着用。中学時代は「セーラー服棋士」としても話題になったが、現在通う高校の制服はブレザー。
  ☆詰め将棋 小学3年の時、高橋和女流3段に「どうしたら強くなりますか?」と聞いたところ、「毎日詰め将棋をやるといいよ」とアドバイスされ、今日まで一日も休まず実践している。
  ☆尊敬する棋士 大山康晴15世名人。「攻めだけではなく、守りの大切さを学んだ」
  ☆キャッチフレーズ 「出雲のイナズマ」。劣勢を瞬時に逆転する鋭さが持ち味。

 ◆女流棋士最年少タイトル 1982年の女流王将戦で林葉直子が14歳3か月で獲得したのが最年少。2番目は、86年の女流名人位戦で優勝した中井広恵が16歳6か月。里見の16歳8か月は3番目。

 ◆第35期女流名人位戦挑戦者の行方 矢内理絵子女流名人の挑戦者を決めるA級リーグは、終盤を迎えている。8局を終えて、里見は7勝1敗でトップ。清水、千葉涼子3段が6勝2敗で続いている。最終9局目は、12月3日に行われ、里見は清水と対局。里見が勝てば、初の女流名人位戦への登場となる。里見が敗れると、挑戦者決定は清水とプレーオフに。さらに千葉も上田初美2段との最終9局目に勝てば、7勝2敗で星が並び、里見、清水との3者プレーオフで挑戦者が決まる。

 ◆不振で防衛失敗清水「残念です」 ○…清水は11度目の倉敷藤花獲得を目指したが、最後は力尽きた。「満足できる将棋が指せなかったことが反省点でもあるし残念です」と唇をかみしめた。2連敗で防衛できなかったことを振り返って「里見さんの良いところが出た2戦だったと思う。彼女は特にこの1年、すごく成長したと思う」と話した。「自分としては、今後新しい目標に向かって頑張りたい」。12月3日のリベンジに静かな闘志を燃やす。

http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20081124-OHT1T00107.htm