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2008年11月23日(日) 01時55分

刃物の血がポイント、DNA鑑定へ…出頭男「目撃」と酷似読売新聞

山口剛彦・元厚生次官夫妻が襲われた自宅前は、人通りも少ない(22日午後6時36分、さいたま市南区別所で)=中村光一撮影
妻の靖子さんが襲撃された吉原健二・元厚生次官宅(22日午後5時5分、東京・中野区で)

 旧厚生官僚の元トップや妻が相次いで襲われる事件が発覚してから5日目の22日夜、「事務次官を殺した」「二つとも自分がやった」と言って男が警視庁に出頭した。同庁は、男がナイフを持っていたことから銃刀法違反容疑で逮捕する方針だが、今後、捜査はどのように進むのか。

 ◆ナイフと傷口

 22日午後9時すぎ、東京・霞が関の警視庁本部に男が出頭したという一報は、警察庁から首相官邸へと即座に伝えられた。

 「まさか、このタイミングで出頭してくるとは思わなかった」。警察庁刑事局の幹部は驚きながら、「ナイフに付いていた血液の鑑定が大きなポイントになる」と指摘した。

 18日午前、さいたま市内の自宅で殺害されているのが見つかった元厚生次官の山口剛彦さん(66)と美知子さん(61)は、山口さんが胸と背中に計4か所、美知子さんも胸と脇腹に計3か所、長い片刃の刃物で刺され、肋骨(ろっこつ)を砕いて心臓に達した傷があった。

 東京都中野区の吉原健二さん(76)宅で18日夕、宅配便業者を装った男に刃物で刺された妻靖子さん(72)も、胸に肺まで達する大きな傷を負っていた。

 男が所持していたナイフは刃渡り20センチ、全長33センチの大型で、二つの事件の被害者が受けた傷口と矛盾しない。刃の部分には血痕が付着しており、警視庁はDNA鑑定で、山口さん夫妻や吉原靖子さんの血液と一致するかどうか確認する。

 DNA鑑定は最新技術によって早ければ1日で結果が出るため、その結果次第で、同庁は、銃刀法違反容疑から、二つの事件の容疑に切り替える可能性がある。

 ◆目撃証言 

 重傷を負った吉原靖子さんは意識が回復した20日以降、入院先の病院で警視庁の事情聴取に協力し、その中で「犯人は年齢30〜40歳で身長165センチ程度」と話していた。

 22日に警視庁に出頭してきた男は、46歳で身長165センチ程度で、靖子さんの証言とほぼ一致している。

 また、靖子さんは襲われた時の状況について「『宅配便です』と呼び出され、玄関を開けた。体が隠れるほどの大きさの箱を持った男に突然刃物で胸を刺された」とも証言した。

 山口さん夫妻宅の玄関の遺体近くにも印鑑が落ちており、この事件の犯人も宅配便業者を装って襲ったとみられている。出頭してきた男の車の中からは、段ボール2個も見つかっており、この段ボールが事件に使われたものかどうか、確認することも今後の捜査の焦点になる。

 一方、男が警視庁に乗り付けた車は軽自動車だった。この車は川越ナンバーのレンタカーで、二つの事件で、似たような車が目撃されていたかどうかも裏付け捜査のカギになる。

 ◆動機の解明 

 警察庁は吉原靖子さん襲撃事件の翌19日、警視庁と埼玉県警の幹部を集めた異例の捜査会議を開くなど、「警察の威信にかけて逮捕しなければならない事件」(警察幹部)と位置づけていた。吉村博人長官も現場検証や地取りなどの基礎捜査を徹底するよう指示し、これを受けて埼玉県警は捜査員を倍増した。

 しかし、山口さん宅からは、犯人のものとみられる指紋は全く検出されないなど、有力な物証が少ないため、「長期戦になる」との声も出ていた。

 出頭してきた男は「自分が以前飼っていたペットを保健所に捕まえられて殺されたことに腹が立っていた」と話しているが、なぜ、厚生事務次官経験者を狙ったのかは、はっきりしない。男と2人の元次官との直接的な関係は判明しておらず、警察幹部の1人は「動機を早急に解明したい」と話した。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20081123-OYT1T00130.htm?from=main1