記事登録
2008年11月23日(日) 00時00分

<下>周知進むも増す不安読売新聞

裁判員制度をPRする長崎地裁の看板

 長崎地裁で10月に行われた模擬裁判。長崎地裁、長崎地検、県弁護士会の法曹3者が参加し、協力企業などから62人を選び、裁判員を選任するなど本番と同じ手続きで進められ、3日間連続で開廷された。

 「責任が重すぎる」「議論が難しい」。酒気帯び運転で死亡事故を起こした危険運転致死罪事件を審理した裁判員役の6人に感想を聞いたところ、4人が「実際に選ばれたら参加したくない」と答えた。

 長崎市の男性会社員(66)は「興味はあったが、法律知識もなく難しすぎる。少ない時間で判決を下す責任には耐えられない」と厳しい表情を見せた。一方、「『これくらいかな』と思って量刑を出した」と語る自営業男性(58)は参加に意欲的だった。「丼勘定で決めるぐらいでないと、やれない」と開き直った。

     ◇

 「事前に公判前整理手続きで争点が整理されているため、裁判員に法知識は求めない。殺意があったかどうかや状況が緊迫していたかなどを認定するだけ」

 制度を周知し、不安を解消するため、県内の法曹3者は各地で説明会などを開いてきた。企業、農協、漁協、学校、喫茶店など多岐にわたり、2006年4月から今年10月まで開催は1000回を超えた。長崎地裁の担当者も「ここまで及ぶとは予想しなかった」と驚く。

 しかし、状況は好転していない。内閣府の調査によると、2005年2月発表時には制度について「知っている」と答えた人が71・5%だったのに対し、06年12月には80・7%と増加した。しかし、「あまり参加したくない」「参加したくない」も70%から78・1%と増加。最高裁が今年3月に発表した調査結果でも参加を望まない人が82・4%と、2年前に比べ20ポイント以上増えている。「知れば知るほど参加したくない」という状態に陥っている。

     ◇

 「裁判がこれまで社会と遠い存在だったことの表れ。参加したくないという反応は当然だと思うが、そういった人たちが参加してこそ幅広い意見が反映される裁判となる」と長崎地裁の井上弘通所長は制度の意義を訴える。「様々な分野で国民の信頼が揺らぐ中、裁判員制度は最大の情報公開」とも強調する。

 制度スタートまで半年と迫る中、試行錯誤は続いている。

 (この連載は川口知也が担当しました)

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/nagasaki/feature/nagasaki1227274562196_02/news/20081122-OYT8T00705.htm