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2008年11月23日(日) 23時03分

北方領土問題の対立回避 儀礼的な日露会談 尾引く「2島先行返還論」産経新聞

 【リマ=佐々木類】22日の日露首脳会談は、初顔合わせということもあり、北方領土問題をめぐる双方の対立を極力回避することに腐心した儀礼的な色彩の濃いものとなった。来年初めで調整を進めることが決まったプーチン露首相訪日への影響を極力抑えたいとの双方の思惑が一致した面もあるようだ。政府内にはかつて日本側が発信した2島先行返還論による「ダメージがいまだに尾を引いている」(外務省筋)との声もあり、これがロシア側に問題解決を長引かせる材料を与え、局面打開の妨げになっているようだ。

 会談で特筆されるのは、ロシア外務省の動きの鈍さを指摘した麻生太郎首相の苦言に、メドベージェフ大統領が応じ、ロシア側が「官僚の抵抗は首脳の意思で解決できる」との表現で、事務レベルでの協議の加速を約束した点だ。

 麻生首相が、日本の外務省が事務レベルの停滞にいらだちをみせていることを指摘すると、大統領は隣席のラブロフ外相らの方をみて、「あなた方のことではないか」と引き取り、「大爆笑になった」(日本側同席者)という。

 日露双方は北方領土返還をめぐり、過去に合意した宣言案について具体的な言及を避けたが、これは、双方の溝の深さにスポットライトが当たらないように配慮したためだ。

 北方領土をめぐり、日本側ではかつて、歯舞、色丹の2島先行返還論が浮上したこともあるが「国後、択捉、歯舞、色丹の4島の帰属を明確にして平和条約を締結する」ことを明記した1993(平成5)年の東京宣言を交渉の基本とする立場だ。

 これに対し、ロシア側は歯舞、色丹の2島返還を明記した56年の日ソ共同宣言を交渉の基本とし、2島先行返還論を逆手にとって攻勢をかけ続けている。

 今月5日の日露外相会談では、ラブロフ外相が「ロシアは56年宣言が相互に受け入れ可能な解決策の基礎になるべきだ」と明言し、ロシア側の基本姿勢が変わっていないことを強く印象付けた。

 政府・与党内には、ロシア側の返還の基礎はあくまで2島であり、これを日本側が拒めば「4島どころか、2島すら返さないという意思の表れ」(自民党関係者)との警戒感もある。

 停滞が続く日露の領土交渉だが、最近は「ロシア側に、日本との交渉を活性化させる兆しが見え始めている」(外務省筋)という。背景にはロシア国内のエネルギー事情がある。

 ロシア国内のエネルギー供給源は、中長期的に生産減が予想される西シベリアから、新規開発が見込まれる東シベリアに移行しつつあり、日本の技術による極東・東シベリア地域のインフラ(経済社会基盤)整備が不可欠だからだ。

 ただ、今年7月の日露首脳会談で合意したプーチン首相の年内訪日は見送られた。日本政府は、領土交渉を進展させるには、大統領だけでなく、大統領に大きな影響力を持つプーチン首相が鍵を握るとみて、同首相への働きかけも強めていく構えだ。

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