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2008年11月21日(金) 17時24分

裁判員の流れをシミュレーションすると… 審理に参加から判決まで産経新聞

 裁判員はどんな流れで審理に参加し、判決にたどりつくのだろうか。大阪市在住の女性会社員(31)が選ばれたとしてシミュレーションすると…。

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 ■封書で通知

 12月某日の夜。勤務先の会社から帰宅すると、見慣れない封書が届いていた。差出人は最高裁判所。中の用紙に「裁判員候補者名簿への記載のお知らせ」との表題があった。

 抽選によって平成21年5月21日から12月31日までの候補者名簿に記載され、今後はこの名簿をもとに実際の事件で裁判員に選ばれることがあるという。

 「裁判員なんて、私に務まるわけない。来年はそろそろ子供ができるかもしれないし…」

 学生や70歳以上の高齢者は1年間を通じて辞退できるらしい。該当しないが、辞退希望を書き込める同封の調査票にあれこれと事情を書き込んで送付した。

 しかし翌年秋のある日。「選任手続期日のお知らせ」という封書が届いた。

 《○月○日午前9時に大阪地裁1階の待合室にお越しください》

 呼出状だ。裁判員として裁判に参加するのは6週間後の2日間という。

 「去年の年末に辞退の希望を送ったはずなのに。それでも呼び出されるの…」

 同封された質問票を丹念に読んだ。重い疾病か傷害で裁判所に行くことが困難▽親族を介護・養育する必要がある▽妊娠中か、出産の日から8週間を経過していない▽事業上の重要な用務を自分で処理しないと著しい損害が生じる…。辞退事由に全く該当しない。

 夜遅くに帰宅した夫に相談すると、「あまり遅くならないなら」と渋い顔。通知に載っていたコールセンターにどれくらい時間がかかるか尋ねた。「打ち合わせや昼食の時間を除いて5時間くらいですよ」

 それなら急いで帰れば晩ご飯も作れそう。勤務先の承諾も得た。

 どんな事件を担当する可能性があるのか知りたいけれど、書かれていない。今度は質問票に辞退希望を書かずに返送した。

 ■選任手続き

 当日午前9時、大阪地裁の待合室に入ると、すでに50人以上の人が待っていた。ちょっと柄の悪そうな男性もいる。

 私ならこんな人に裁かれるのはイヤ。でも人を見た目で判断してはいけないと慌てて思い直していると、係員がビデオを使って、流れを説明し始めた。初めて事件内容を知らされた。

 「被告は17歳の高校生。強盗傷害事件です。友人と共謀して大阪市北区の交差点で、自転車に乗っていた20歳の男性から強盗をしようと決意、金属バットで頭や肩を強打しました。被害者は脳挫傷、右鎖骨骨折の傷害を負い、今も後遺症があります」

 知らない事件だ。事件と特別な関係があるか尋ねる質問票に記入、呼ばれて質問室に入る。裁判官や検察官、弁護人が目の前にいる。映画や小説でしか知らないような世界の人たちばかりで、緊張して体が震えた。それでも女性裁判官もいて、何となく安心した。

 裁判官「質問票の回答に変更はないですか」

 私「はい」

 裁判官「公判審理に参加してもらえますか」

 私「あの…。日程が延びたり、夜遅くなると困るんですが」

 裁判官「そうならないようにしますよ」

 検察官と弁護人はそれぞれ4人まで、理由を告げずに拒否できるという。全員が終了すると、パソコン抽選で性別、年齢もさまざまな6人が選ばれ、まさかの私も…。

 午後1時。裁判長の後に続き、いよいよ法廷へ。

 ■公判・評議

 被告席に座っている少年はまだあどけなさの残る顔つきだ。ジャージー姿でうなだれている。この少年の将来を自分たちが決めていいのだろうか。

 検察官が起訴状を朗読、少年は罪状を認めた上で「先輩が怖くてやってしまった」などと供述した。

 その後、検察官が冒頭陳述の中で少年の非行歴を説明した。中学生の時にも暴力事件を起こし少年院に入っていたという。検察官は厳しい表情で「被害結果は重大で、(少年院送致などの)保護処分は社会的に許されない」と指弾した。

 続いて弁護人が立った。書面を読まず、私たち裁判員席に「反省は深まっている。立ち直りの可能性に目を向け、少年院への移送を」と熱く語りかけた。法廷を舞台にしたサスペンスドラマでみたような場面だ。

 ここで裁判長が「少年刑務所での懲役と少年院での保護処分のどちらにするかが争点です」と告げた。

 少年の反省は本物なのか。その程度を見極めなければならない。裁判員も質問するよう促されたため、思い切って少年に質問した。

 私「被害者に対してはどう償うつもりなのですか」

 少年「今はお金がないけれど、早く働いてお金を送りたい」

 直接聞くとちゃんと反省しているんだと思える。でも新たな疑問も芽生えた。

 反省すれば済むの? お金をもらっても被害者は元の身体に戻れないかも…。

 母親らの証人尋問など2日目の審理を経て、検察官の求刑は懲役5年以上8年以下。そして評議室へ。

 裁判長はまず裁判員に意見を聞いた。プロの意見を押し付けるのでなく、素人でも自由にものが言える雰囲気をつくろうと心がけているようだ。

 私は素朴に感じたことを話した。

 「弁償しようという気持ちは評価できるが、本当にできるのかな。後遺症に苦しむ被害者は少年院送致で納得できるのでしょうか」

 基本的に少年刑務所での刑事罰が妥当という意見では一致したが、量刑判断はばらばらだった。私は検察官の求刑通りでいいと思ったけど、早く更生してほしいという人もいて、ぎりぎりまで議論が続く。

 最後には多数決で懲役3年6月以上6年以下。法廷に戻り、裁判長が少年に判決を言い渡した。

 人を裁く重みに右往左往しながらも、何とか重責を果たせたかな。夫は興味津々で評議の内容を聞いてくるかもしれない。家路につきながら、裁判員に課せられる守秘義務を固く心に誓った。

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