記事登録
2008年11月21日(金) 17時24分

裁判員制度「『市民主義』定着へ意識改革、わかりやすさ重視を」 渡辺修・甲南大法科大学院教授産経新聞

 裁判員はプロの裁判官と協力して市民の良識で納得できる裁判を実現する。裁判官のみの裁判も基本的には信頼できるのだが、21世紀の社会は市民が主人公になる時代を迎える。司法分野でも「市民参加」が不可欠となる。被害者が少年審判を傍聴し刑事法廷に参加するのもその表れだ。

 有罪事件に慣れた裁判官では無罪証拠を見逃すおそれもあり市民の新鮮な目で真相を解明することが正義の実現につながる。司法の世界で「市民主義」が定着すれば、社会のモラルの回復、犯罪の抑制、犯人の更生にもつながる。

 ただ、事実認定はプロしかできないという偏見も根強いから裁判官が強引に評議を誘導するおそれがある。プロが作ってきた量刑相場を押しつけるおそれもある。しかし、法律家のみの犯罪観や量刑相場が社会の納得できるものなのか確かめるのが裁判員裁判の意味だ。プロの権威にたじろぐようでは意味がない。

 重大事件の審理を裁判員に委ねる以上、容疑者の取り調べの全過程録音録画はぜひ実現すべきだ。取り調べの様子がよくわからないのに強制・拷問・約束などによると、被告が主張する自白を証拠にして、裁判員に死刑など重い刑罰を求めるのは無理だ。取り調べ「可視化」を急がねばならない。

 裁判官が市民の負担を心配するあまり公判前整理手続きで争点や証拠を絞り込みすぎると、かえって市民が事件の全体をつかみにくくなる。検察が公判廷で順に証人・鑑定人によって簡潔に事件全体を立証した上で争点となるポイントに絞って手厚く立証をするべきだ。その場合、法律家は法廷技術を磨いて市民にわかりやすい審理にしなければならない。例えば、弁護人が検察官と同じ尋問を繰り返す場面がよく見られるが、反対尋問は誘導尋問で証言の信用性をくつがえす機会だ。効果的尋問技術は研修などで身につけるべきだろう。冒頭陳述や弁論のまとめかたも「わかりやすさ」を基準に構成すべきだ。

 「市民主義」は社会全体が司法の担い手となるものだ。職場や学校など社会の側が裁判員となる人を温かく送り出す意識改革も急がなければならない。(寄稿)

【関連記事】
裁判員制度、法施行まであと半年 名簿記載通知発送へ
裁判員の流れをシミュレーションすると… 審理に参加から判決まで
裁判員制度Q&A 「仕事で辞退」個別に判断、上司報告は可、ブログ不可 判決後も守秘義務
「無罪発見」こそ裁判員の使命 甲山事件元被告・山田悦子さん
裁判員制度、中小企業も協力的に 東京商工会議所調査

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081121-00000594-san-soci